第二話:廉直文帝の十六年(紀元前164年)、申嘉は御史大夫となった。 二年後に丞相張蒼が罷免されると、文帝は後任に竇公国を選ぼうとしたが、 呂氏専横も記憶に新しく、また私情で義理の弟を丞相にしたと思われるのが不安だった。 実際、竇公国は賢人という評判が高く、また品行優れた君子でもあった。 文帝は思案したあげく、肉親の者を登用するのはよくないと判断した。 後任には父劉邦の時代から仕えてきた大臣を丞相に任命しようと考えたが、良臣は死に絶え、 生き残っている者にも適任者がいなかった。 そこで御史大夫の申嘉を丞相とし、関内侯から格上げして故安侯とした。 申嘉は廉直な人柄で、裏口から私的な便宜をはかってやることはしなかった。 その人柄ゆえ文帝にも信頼された。 その頃、文帝は通という男を寵愛しており、巨万の富を下賜していた。 あるとき申嘉が参内すると通が文帝の側におり、その無作法ぶりは君臣の礼を外れていた。 申嘉はこの態度が許せず、用件を奏上したあと文帝を諌めた。 |
|
申嘉 | 「臣下として寵愛し、これを富貴にさせるのは結構と存じますが、 朝廷での礼は厳粛であるべきです。」 |
文帝 | 「丞相よ、それは言わないでくれ。 わしは通を愛しているのだから。」 |
こう言われてしまっては申嘉には返す言葉もなかった。 しかし、曲がったことは許せない申嘉である。 朝廷を退出して丞相府へ戻ると、申嘉は檄を作り丞相府へ出頭するよう通に命じた・・・ |