第四話:再会


長安にやって来た竇広国は、観津の竇氏が皇后になったと聞いた。

彼は「おや?」と思った。

観津といえば、幼い頃自分が住んでいた所ではないか。

しかも姓まで同じではないか。


広国は、半信半疑ではあったが「もしや姉上では・・・?」と上書して訴えでた。


上書を受けた竇姫も半信半疑であった。

竇姫は、文帝に許可をとってから、この広国と名乗る男を召し出した。


竇姫 「私の弟と名乗るのはあなたですか?

しかしいきなり言われても信用してよいものか判りません。

何か証拠となるような記憶はありますか?」

竇広国 「私は幼い頃、観津に住んで竇氏を名乗っていたのを覚えています。

姉さんと桑の実を採りにいった時、私は木から落ちて、

泣いて姉さんを困らせた記憶があります。

あと、姉さんは私から離れて西へ行かれ

寂しく思ったことをよく覚えております。

そのとき、私は駅舎まで見送りに行き、

姉さんは米のとぎ汁で私の頭を洗ってくれ、

食事を食べさせてくれ、それから行ってしまわれました。」

竇姫 「・・・・・・う、ううぅ。

お前は少君だね・・・。」

竇広国 「あ、姉上・・・。」


あとはもう言葉にならなかった。

竇姫は弟の手を取って泣きじゃくり、涙が縦横に流れ落ちた。

側仕えの者や侍女らもみなもらい泣きし突っ伏した。

広国も泣きじゃくった。


竇姫は兄竇建をも探し出し、兄弟に手厚く土地・金銭を与え、長安に住まわせた。


この感動的な再会話は、あっという間に広まった。

漢の重鎮である老周勃、老灌嬰らは、前代の呂氏の専横を見てきただけに、

「我々は生きている限り、この竇兄弟に生命を握られることになるだろう。

両人は微賤の出だから、善い師傅(教育係)や賢明な賓客を側に侍らせ、

温厚な君子になってもらわないと大変だ。呂氏の真似でもされたら、一大事だ。」

と思い、年長者で品行正しい者だけを選りすぐって守役として一緒に住まわせた。



その結果、竇建と竇広国は非常に謙虚な君子となり、

尊貴な身分をかさにきて驕り昂ぶることはなかった。

兄の竇建は、剛直の士・季布と親交を結んだという。


文帝の治世は二十余年にわたったが、その間に建国の功臣は死に絶えた。

陳平、周勃、灌嬰、張蒼、と重鎮がたて続けに逝った。

文帝は、竇広国の人柄・才能を高く評価して丞相に任命しようとしたが、

嫁の一族を贔屓したのではないかと思われるのが気にかかった。

よくよく考えると、呂氏が天下を覆しそうになったのはつい最近であった。

いまだに、朝廷人は外戚を恐怖に思っていた。(上の周勃灌嬰の発言にもよく表れている)

文帝は、外戚である竇氏に権力を握らせるわけにはいかなかった。

結局、建国の功臣最後の生き残りである申屠嘉を丞相にした。




人の世は、避けられぬ悲しみに溢れているけれど、

乗り越えた先に、真の道を見つけることができる。


管理人は、竇姫とその兄弟を見て思った。


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