第七話:社稷の計


丞相の陳平は呂后専制を憂慮していたが、止められる程の権力は無く、

また自分に禍が降りかかることを恐れて家に引き篭もっていた。

陸賈はそんなことだろうと、見舞いと称して陳平の自宅を訪ねた。

陸賈は入り口で案内の者も待たずにずかずかと入り込み、陳平の前に座った。

陳平はちょうど深く考え込んでいて、陸賈に気がつかなかった。


陸賈 「丞相はどうしてそんなに考えこんでおられるのかな。」

陳平 「おお、陸先生か。

先生なら私の悩みを当てられるでしょうな。」

陸賈 「丞相は、地位は最高位であり、三万戸の侯です。

財産も地位もこれ以上望まれることはないでしょう。

それなのに心配事がおありならば、それは呂一族と幼君のことではありませんか。」

陳平 「その通りです。

どうすればよいのか、分かりません・・・。」

陸賈 「『天下安、注意相。天下危、注意將』と言うではありませんか。
(天下が平和な時は人々の目は丞相に注がれ、天下が危うい時は人々の目は将軍に注がれる)
将軍と丞相が結託すれば、百官は喜んで後に従い、

百官が従えば天下に変事が起きても権力は分離しません。

国家は陳丞相と絳侯さま(太尉の周勃)のお二人にかかっております。

絳侯さまと私は仲がよく、絳侯さまは私の言葉を軽く扱います。

このことを言上しても笑って取り合ってくれないでしょう。

なぜ丞相は、絳侯さまともっと付き合いを深くし連絡を密になさらないのです。」

陳平 「!!

そうか、その手があったか」

(以前、陳平は周勃に讒言されておりまだ怨みを持っていたのかもしれない。)


こうして陳平は陸賈の計に従い、周勃に五百金の贈り物をし酒宴を開いた。

周勃も陳平を招いて返礼の酒宴を開いた。

そこで陸賈は陳平・周勃の為に呂氏への対抗策を色々と立てた。

呂氏を滅ぼし文帝を擁立した陰の功労者は陸賈だったわけである。


陳平は呂氏を滅ぼした後、陸賈に奴婢百人・馬車と馬を五十台分・五百万銭を贈った。

陸賈は漢の高官と付き合い、名声は甚だ高まった。


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