第八話:決裂
張耳は九死に一生を得た。項羽に感謝したのは言うまでもない。

しかし、張耳と陳余は項羽配下として気まずい対面をすることになった。


張耳「おう、陳余さん。なんであの時助けに来てくれなかったんだい?

そんなに自分の命が大事だったのかい?

私達の友情がこんなに薄っぺらいもんだとは思わなかったよ!」

陳余「・・・それは、張黶と陳沢に伝えた通りだ。誤解しないでくれ。頼む。」

張耳「ん!張黶と陳沢はどうした? まさか陳余さん、あなたが殺したんじゃ・・・・」

陳余「ちっ、違う!私は・・・・」

張耳「あんたは私を見殺しにしようと思ったぐらいだ。あの二人を殺したと疑われても仕方があるまい」


張耳は、陳余を散々問い詰めた。

陳余は「もういい!あなたが私をこんなに怨んでいるとは思わなかった!(逆ギレ?)

もう私は、趙の将軍職の印(将軍の位の証に印を使っていた)は捨てる!」

と、印を張耳に押し付け、怒ってトイレへ行ってしまった。


張耳は「う〜む。ちょっと言い過ぎたかな・・・。しかし、この将軍の印、どうしよう」

と悩んでいると、食客がこう進言した。

「天の与えを取らざれば、かえって其の咎を受くと言うではないですか。

その印は受け取った方がいいでしょう」

張耳は「まあ、見殺しにしようとしたのは事実だ。これぐらいのことをされてもしょうがないな」

と、食客の意見を受け入れ、将軍の印を身につけてしまった。おいおい


その頃、陳余は便所で

「はぁ〜。きっちり事実を伝えて、許してもらったほうがいいな。私の過ちは明白だし・・・。」

と、思っていた。

便所から帰ってくると、ななんと張耳が自分の印を身につけているではないか!

「おおお。張耳さんなら将軍の印を、きっと辞退してくれると思ってたのに・・・」

陳余は、黙って張耳の前から走り去った。

陳余はこの一件で、張耳を非常に怨んだ。

(管理人が考察するに、陳余はまだ権力の虜になっているような気がします。
将軍の印のことより、張耳との友情を元に戻すほうが先だったような・・・・。)



張耳は、陳余の率いていた軍勢を手中に収めた。

しかし陳余は親しかった兵数百をそこから引き抜き、黄河のほとりへ行って漁と狩猟で生計を立てた。

二人は完全に仲違いしたわけである。


一方、張耳は命の恩人項羽と行動を共にし、新安で秦の降兵20万を土に埋め(←の説明はココ)、

函谷関(かんこくかん:秦へ入る関門。ここを落とさなければ、秦へ攻め込むことはできなかった)を越え、項羽と共に秦を滅ぼした。


項羽は、秦討滅に功績のあった人を王や侯にした。

張耳は元々高名だった上に、項羽も彼の力量を認めていたので、

常山王
(じょうざんおう:元趙の地が常山となった)に任命された。

首都は襄国と決められた。(常山最大の都市だった邯鄲は、章邯によって徹底的に破壊されていた為)


一方、ひねくれて漁や狩猟ばかりしていた陳余は、

項羽と共に戦わなかった、という理由で、たった三県しか貰えなかった。

張耳と共に項羽に救われた元趙王の趙歇は、北方辺境の地、代(だい)に国替えになった。


陳余は、「くそぅ・・・・、張耳め。まんまと王になりやがったか。

俺が貰った領地はたった三県だけじゃないか。不公平だぁぁー!!

・・・きっと張耳が、俺のことを項羽に讒言したに違いない。」と、思っていた。


そんな時、張耳が趙に凱旋帰国してきた。陳余は、憤慨した。

「くっそ〜〜〜、なんで俺がこんなみじめな目に遭わなきゃならんのだ。

奴は王様。俺は小領主。む・か・つ・く〜〜〜!

・・・まあいい。みてろよ、今にお前を蹴落としてやるからな。くっくっく・・・・・」
(めっちゃ悪人になってきた・・・完全に人変わりしてます)


そんなとき、早くも斉(せい)の国が項羽に反旗を翻した。

全ては項羽のずさんな論功行賞のせいである。


このチャンスを見逃す陳余ではなかった。

「これで、俺も王になれるぞ・・・。そして張耳を・・・・。むははは!!」


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