第九話:張耳の敗走・漢王の下へ |
斉が項羽に対して反乱を起した。 (斉は大都市、臨(りんし)を中心に、山東半島を含む、大国だった) 陳余は、この時とばかりに斉に夏説(かえつ)を派遣し、同盟を結び、 元趙王の趙歇を代から呼び戻し、趙の国王とする密約を取りつけた。もちろん、張耳を倒して・・・・・。 陳余は、項羽に貰った三県で兵を募り、張耳を急襲した。 何の備えもなかった張耳は、身一つで逃げ出すのがやっとだった。 逃げ遅れた張耳の家族は皆殺しとなった。だが、息子の張敖は脱出に成功した。 陳余は、元趙王の趙歇を代から呼び戻し、再び趙王の位に就けた。 陳余の傀儡であったことは言うまでもない。 趙歇は、陳余に感謝し代王に任命した。が、陳余は代の地へは行かず、 かわりに夏説を大臣として代の地に行かせた。 実質、陳余は代・趙二国の支配者となったのである。 一方張耳はひたすら逃げていた。 彼は兵の大半を失い、途方に暮れていた。 そして、食客の甘公(かんこう)に、今後どうすればいいかを尋ねた。 「甘公さん。これから私はどこへ逃げればよいだろうか・・・ やはり、私を常山王にしてくれた項羽に庇護を求めるべきだろうか・・・」 甘公は情勢に通じていたので、漢王の劉邦につくことを勧めた。 張耳「そうか。・・・・劉邦どのは昔、私の食客だったなぁ。 そう言えば、何ヶ月も彼の面倒を見たなぁ・・・。 まぁ、昔のよしみもあるし、彼の下に逃げ込んでも寛大に受け入れてくれるだろう。 しかし、なんか複雑な気持ちだな・・・。」 甘公「殿。そんなことを言っている場合ではありません。敵が迫って来ます。 さあ、愚痴ってないで。早く逃げましょう。」 張耳「うむ。・・・しかし、陳余の奴、許せんな!私の家族を皆殺しにするとは!! まあ、息子は助かったが・・・・」 張耳と陳余がごたごた争っている間に、漢王劉邦は項羽に対し反旗を翻していた。 (そして、韓信という稀代の名将を配下に加えていた) 韓信は、塞王(さいおう)の司馬欣(しばきん)と、テキ王の董翳(とうえい)を攻め、 あっという間に二人を降伏させた。 そして、残るは雍王(ようおう)章邯(しょうかん)。 韓信は、章邯を廃丘(はいきゅう)に包囲した。劉邦も韓信軍と合流し、廃丘落城は必至であった。 そんなときに、張耳は劉邦陣営に到着した。 劉邦は、老いの坂にさしかかっている張耳の落魄した姿を見て、大いに同情し、 恩返しの意味もあり、彼を手厚くもてなした。 張耳の運はまたも上向きになるのである・・・・・ |