優旃(ゆうせん)という人は、姓・名ともに伝わっていない。 それどころか、出身地も子孫もわからない。 優というのは「役者」「道化」という意味で、旃は字だという。 現代語訳すれば、「道化の旃さん」とでもいうのだろうか。 彼は身長がいったって小さく、若い頃からかなりの劣等感に苛まれていた。 しかしその劣等感を「お笑い」で克服した。 自らを卑下し、多くの人を笑わせ幸せな気分にさせることで 自らの小さい体を役立てることを知ったのだ。 彼は秦の始皇帝に召抱えられ、始皇帝が酒宴を開く度に芸人として陪席した。 優旃は酒宴で度々冗談をかっとばし、皆に愛されていた。 しかも、それでいて言うことは道理にかなっていて群臣を感心させた。 いつものように酒宴が始まり、宴が盛り上がってきたとき突然大雨が降り出した。 始皇帝は、「雨中の宴もよいものじゃな。」とほろ酔い加減だった。 ふと末席にいた優旃が外を見ると、 護衛兵たちがずぶ濡れになって凍えているのに気付いた。 優旃は彼らをかわいそうに思い、席をはずして外に出た。 優旃は護衛兵たちに近づき、言った。 |
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優旃 | 「すごい雨だな。みんなびしょびしょだ。 休息したくはないかな?」 |
護衛兵 | 「休息・・・ですか? ・・・させていただければかたじけないのですが・・・役目が・・・。」 |
優旃 | 「はっはっは!わかったわかった。いまから帝に頼みにいってやるぞ。 わしがお前達に声をかけたら、すぐ『は〜〜い』と大声で返事をしなさい。 そうすればお前達は休息できるぞ。」 |
優旃が宴席へ戻ってしばらくすると、 毎回恒例の群臣による始皇帝万歳コールが始まった。 始皇帝は得意満面でいたく機嫌が良かった。 そのとき、優旃がつと立ち上がり欄干の前まできてイキナリ叫びだした。 |
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優旃 | 「盾を持った護衛官たち!!」 |
護衛兵 | 「は〜〜〜い。」 |
優旃 | 「お前達は背は高いが、何の役に立つのかな? 雨の中で突っ立っているのが仕事? わしはいたって背が低いが、 ありがたいことにちゃんと休息しているぞ!」 |
群臣は、優旃の小柄な体と護衛兵の長身を見て、みなほほえましく笑った。 始皇帝もからからと笑い、その場で優旃を召し寄せその機智を褒めた。 そして、「これから酒宴の際は護衛の者は、半数ずつ交代で勤務するように」と勅命を出した。 こうして優旃は護衛兵の負担を減らしてやったのである。 優旃の人を慈しむやり方は、いつもこの通りであった。 そして、彼の笑いの精神は人民を救うことになる・・・ |