第一話:小人の芸人


優旃(ゆうせん)という人は、姓・名ともに伝わっていない。

それどころか、出身地も子孫もわからない。

優というのは「役者」「道化」という意味で、旃は字だという。

現代語訳すれば、「道化の旃さん」とでもいうのだろうか。


彼は身長がいったって小さく、若い頃からかなりの劣等感に苛まれていた。

しかしその劣等感を「お笑い」で克服した。

自らを卑下し、多くの人を笑わせ幸せな気分にさせることで

自らの小さい体を役立てることを知ったのだ。



彼は秦の始皇帝に召抱えられ、始皇帝が酒宴を開く度に芸人として陪席した。

優旃は酒宴で度々冗談をかっとばし、皆に愛されていた。

しかも、それでいて言うことは道理にかなっていて群臣を感心させた。



いつものように酒宴が始まり、宴が盛り上がってきたとき突然大雨が降り出した。

始皇帝は、「雨中の宴もよいものじゃな。」とほろ酔い加減だった。

ふと末席にいた優旃が外を見ると、

護衛兵たちがずぶ濡れになって凍えているのに気付いた。

優旃は彼らをかわいそうに思い、席をはずして外に出た。

優旃は護衛兵たちに近づき、言った。


優旃   「すごい雨だな。みんなびしょびしょだ。

休息したくはないかな?」

護衛兵   「休息・・・ですか?

・・・させていただければかたじけないのですが・・・役目が・・・。」

優旃   「はっはっは!わかったわかった。いまから帝に頼みにいってやるぞ。

わしがお前達に声をかけたら、すぐ『は〜〜い』と大声で返事をしなさい。

そうすればお前達は休息できるぞ。」


優旃が宴席へ戻ってしばらくすると、

毎回恒例の群臣による始皇帝万歳コールが始まった。

始皇帝は得意満面でいたく機嫌が良かった。

そのとき、優旃がつと立ち上がり欄干の前まできてイキナリ叫びだした。

優旃   「盾を持った護衛官たち!!」

護衛兵   「は〜〜〜い。」

優旃   「お前達は背は高いが、何の役に立つのかな?

雨の中で突っ立っているのが仕事?

わしはいたって背が低いが、

ありがたいことにちゃんと休息しているぞ!」


群臣は、優旃の小柄な体と護衛兵の長身を見て、みなほほえましく笑った。

始皇帝もからからと笑い、その場で優旃を召し寄せその機智を褒めた。

そして、「これから酒宴の際は護衛の者は、半数ずつ交代で勤務するように」と勅命を出した。


こうして優旃は護衛兵の負担を減らしてやったのである。

優旃の人を慈しむやり方は、いつもこの通りであった。



そして、彼の笑いの精神は人民を救うことになる・・・


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