第五話:郭解伝2


郭解は年長になってからは自らの性格を曲げて倹約し、

怨恨にも徳をもって報い、他人に恩を施しても報いを受けようとしなくなった。

しかし自らの手で義侠を行うことは止めず、他人の命を救ってもその功を誇らなかった。

しかし元来の底意地の悪さは直らず、目つきにも表れていた。



郭解の甥(姉の子)は、郭解の威勢を借り横暴であった。

あるとき酒宴の席で、酒を飲めない相手に無理強いして飲ませようとした。

相手が怒り、郭解の甥を刺し殺して逃げた。

郭解の姉は怒り、自分の子の死体を道に捨てて言った。

「他人にわが子を殺されたのに犯人を捕まえようとしないとは!翁伯もたかが知れたものだ。」


辱められた郭解は犯人の居所を捜させ、居場所を突き止めた。

相手は郭解である。犯人は追い詰められて自首し、ありのままを郭解に告げた。

郭解は、「君が甥を殺したのは当然だ。我が甥が間違っていた。」

と言って犯人を立ち去らせ、甥の死体を回収して葬った。

人々はこの判断・公正さを聞き、みな郭解の義侠を慕い敬った。



郭解が外出した時、みな遠慮して道を避けた。

が、大胆にも両足を投げ出して座り、郭解をじっと睨みつけた者がいた。

郭解は、手下にその男の名を問わせた。

手下は郭解が「殺せ」と命令したと思い刺殺しようとした。

が、郭解が慌てて止めた。

「田舎に住んでいながら尊敬されないのは自分の徳が足りないからである。

彼に何の罪があるのだ。」

そしてこっそり県の尉(中央が任命した尉にも郭解の影響力が及んでいたという意味か)

「あの人は私にとって大事な人だから、夫役の時は密かに免除してやってくれないか。」と言った。

その後、夫役がある度に役人が彼を見ていながらも見過ごすので

妙に思った男が調べたところ、郭解が自分の為に夫役から免れるように計らったと知った。

男はすぐさま郭解に会い、衣服を脱いで罪を詫びた。

若者たちはますます郭解の任侠を慕い敬った。



洛陽の人で仇敵の者がいて、互いにつけ狙っていた。

洛陽の賢者や豪傑が仲裁に入ったが、遂に和解させることができなかった。

困り果てた者が郭解に仲裁を願い出た。

郭解は早速出かけ、夜中にお互いの家を訪ね和解するよう説得したところ、

お互い考えを改めて郭解の説得を聞き入れた。

郭解は、

「あなた方は洛陽の諸賢者が仲裁したのに、誰の説得も聞き入れなかったと聞いています。

いま幸いにもあなた方は私の言うことを聞き入れてくれましたが、私はよそ者です。

よそ者が洛陽の諸賢者の領分を荒らす訳にはいかない。

ですから、当分の間和解できなかったことにしてください。

私が帰った後に洛陽の諸賢者に仲介してもらい、そこで初めて和解できたことにしてください。」

と言って、人に気づかれぬよう夜半に立ち去った。

人々はその態度を賞賛した。


郭解は名声があがっても礼を失することがなかった。

外出する時は馬に乗った者を従えたことがなく、

馬車に乗ったまま県の役所に乗り込んだこともなかった。

他県へ行き頼まれた用件をはたす時、解決できる案件であれば奔走し、

解決できない問題であれば、双方の気持ちを納得させるまで酒食をとろうとしなかった。

その為人々は郭解を畏敬し、争って彼の役に立とうとした。

深夜になると、県内の若者や近隣の豪傑たちの車十数台が郭解の門の前に停まり、

郭解が匿っている亡命者を引き受けたいと申し出ている有様だった。


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