第二話:狎れあい


とう通は、文帝に愛されれば愛されるほど慎み深い態度を取り、

他の者と私的に付き合いをせず、休暇をもらっても外出しようとしなかった。

ますますとう通を気に入った文帝は、何十回も巨万の銭を褒美として与え、

遂には太中大夫(天子の側近で朝議を担当。次官級。)に取り立てられた。

文帝の寵幸ぶりは度を越すばかりで、

天子自らとう通の自宅に行き、酒を飲んで気晴らしをするほどであった。

しかしとう通自身には何の能力もなく、国に有能な人材を推挙することも出来ず、

己の行いを慎んで、今の幸せが続くことを考えるばかりであった。



あるとき朝廷で、とう通は天子の前で取らなければならない礼儀をおろそかにしていた。

大臣たちは不快に思ったが、誰もそれを言えなかった。

が、丞相の申屠嘉(灌嬰・張蒼の後任)が果敢にもこれを言上した。

申屠嘉 「陛下が彼をかわいがるのならば、富をお与えになればよろしいのです。

しかし、朝廷での礼儀は彼といえども厳格でなければなりません。」

文帝 「まぁ、そう言うな。

わしはこいつが好きなんだから。」


しかし、申屠嘉はとう通にも容赦しなかった。

彼は丞相府に帰ると、「とう通は丞相府に出頭せよ。来なければ斬る。」と命令を出した。

とう通は怖気づき、文帝のもとへ駆け込み申屠嘉からの命令をすべて話してしまった。

文帝は申屠嘉を信頼しており、性格も知っていたので、

「お前は行けばよい。わしがそのうち人をやってお前を召し出すから安心せよ。」と言った。


とう通は丞相府に出頭すると、冠を脱ぎ叩頭して額が血だらけになるまで謝り続けた。

しかし申屠嘉は坐ったまま知らぬ顔で挨拶もしなかった。

暫くして、「そもそも朝廷というのは高祖さまのものである。

とう通、お前は小役人のくせに朝廷でふざけている。極めて不敬だ。斬刑に値する。

誰か、すぐに引っ立ててこいつを斬れ!」と言い放った。

とう通は何度も額を地面に打ちつけて謝ったが、赦されなかった。


文帝は、申屠嘉が充分とう通を痛めつけた頃合を見計らって、とう通を召し出した。

「あれは、わしの慰みの相手だ。丞相よ、釈放してやってはくれぬか。」

申屠嘉も天子の命令には逆らえず、とう通を天子の元へ行かせた。

とう通は文帝の元へ帰ると泣きながら言った。

「丞相はもう少しで臣を殺すところでした。」

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