通は、文帝に愛されれば愛されるほど慎み深い態度を取り、 他の者と私的に付き合いをせず、休暇をもらっても外出しようとしなかった。 ますます通を気に入った文帝は、何十回も巨万の銭を褒美として与え、 遂には太中大夫(天子の側近で朝議を担当。次官級。)に取り立てられた。 文帝の寵幸ぶりは度を越すばかりで、 天子自ら通の自宅に行き、酒を飲んで気晴らしをするほどであった。 しかし通自身には何の能力もなく、国に有能な人材を推挙することも出来ず、 己の行いを慎んで、今の幸せが続くことを考えるばかりであった。 あるとき朝廷で、通は天子の前で取らなければならない礼儀をおろそかにしていた。 大臣たちは不快に思ったが、誰もそれを言えなかった。 が、丞相の申屠嘉(灌嬰・張蒼の後任)が果敢にもこれを言上した。 |
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申屠嘉 | 「陛下が彼をかわいがるのならば、富をお与えになればよろしいのです。 しかし、朝廷での礼儀は彼といえども厳格でなければなりません。」 |
文帝 | 「まぁ、そう言うな。 わしはこいつが好きなんだから。」 |
しかし、申屠嘉は通にも容赦しなかった。 彼は丞相府に帰ると、「通は丞相府に出頭せよ。来なければ斬る。」と命令を出した。 通は怖気づき、文帝のもとへ駆け込み申屠嘉からの命令をすべて話してしまった。 文帝は申屠嘉を信頼しており、性格も知っていたので、 「お前は行けばよい。わしがそのうち人をやってお前を召し出すから安心せよ。」と言った。 通は丞相府に出頭すると、冠を脱ぎ叩頭して額が血だらけになるまで謝り続けた。 しかし申屠嘉は坐ったまま知らぬ顔で挨拶もしなかった。 暫くして、「そもそも朝廷というのは高祖さまのものである。 通、お前は小役人のくせに朝廷でふざけている。極めて不敬だ。斬刑に値する。 誰か、すぐに引っ立ててこいつを斬れ!」と言い放った。 通は何度も額を地面に打ちつけて謝ったが、赦されなかった。 文帝は、申屠嘉が充分通を痛めつけた頃合を見計らって、通を召し出した。 「あれは、わしの慰みの相手だ。丞相よ、釈放してやってはくれぬか。」 申屠嘉も天子の命令には逆らえず、通を天子の元へ行かせた。 通は文帝の元へ帰ると泣きながら言った。 「丞相はもう少しで臣を殺すところでした。」 |
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