第二話:天下大乱



黥布が始皇帝陵の労役から囚人を率いて脱走した頃、ちょうど農民による大規模な反乱が起きた。

あの、「陳勝・呉広の乱」である。

この乱も、辺境防備の労役に向かう途中に起きたものである。

秦の労役がいかにきつかったかが垣間見える。

この反乱はあっという間に中国全土に広がり、秦帝国は大きく揺らぎだした。

各地のチッポケな盗賊や反乱軍は皆、陳勝の下に馳せ参じ、陳勝軍は短期間でとてつもない大勢力となった。



しかし、黥布は陳勝の下には行かなかった。

陳勝の挙兵地と黥布が盗賊をしていた所は、地理的にはそんなに遠いと言うわけではない。

きっと黥布はこの頃すでに「天下を取ろう」と思っていたのではないだろうか。(またまた管理人的勝手考察)

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黥布は盗賊たちを率いて陳勝の本拠地とは全く正反対の南へ向かった。

陽湖(はようこ)周辺に勢力を持っていた、呉(ごぜい)と結託しようとしたのだ。

は秦政府から任命された役人だが、善政を敷き、百越(中国南方の少数民族の総称)に慕われ、

人々は尊んで君と称していた。

君・呉は勇猛な百越兵を手中に収め、半独立の体をとっていたと思われる。

黥布はそこを頼っていったのである。



「おお、あなたが有名な黥布どのですか。あなたの武勇、聞き及んでおります」

黥布「いえいえ、呉どのの善政も評判で。百越の異民族も呉どのを慕っているとか」

「はは、あまりおだてないでください。それより、陳勝とかいう男が挙兵したとか・・・。

破竹の勢いで秦軍を破っているそうな・・・」

黥布「はい。今までの秦の暴政が、この反乱を生んだのでしょう」

「うむ。それは私も感じていた。だから私も百越部隊を編成したのだが・・・」

黥布「そこで・・・呉どのに心酔している勇猛な百越兵と、私の兵が結べば一大勢力になると思いませんか?」

「むっ、それは秦に対して謀反を起こせと言っているのか」

黥布「ははは、あなたは秦に追われている犯罪者の私と面会しているではないですか。

しらばっくれるのはやめてください」

「ふふふ、さすが黥布どのだ。私の本心は見破られていましたか・・。

・・・私は、秦の天下はもう終わると思っています。

しかし、百越の兵だけでは挙兵はできず、鬱屈していたところです。

そこへあなたがやって来ました。初めから黥布どのと運命を共にする覚悟でしたよ・・・」

黥布「おおっ!では、我々と共に反旗を翻すのですか!」

「反旗を翻すだけではありませんぞ。私の愛娘を黥布どのの嫁にいれようと思っています」

黥布「ををっ!!なんと、そこまでお考えでしたか。これで我等は一族。成功間違いなしですな!」

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こうして、黥布と呉は南の端で挙兵した。ほんとかよ^_^;

ちっぽけながらも群雄として、天下を狙う勢力の一つとなったのである。



ここで、他地方に目を移してみよう。

先に挙兵した陳勝は一時、陳王を名乗るなど強勢を極めたが、

秦正規兵の出動により軍が壊滅し、殺された。

陳勝部下の呂臣(りょしん)・召平(しょうへい)らは

会稽(かいけい)で挙兵した項梁(こうりょう)を頼った為、会稽の項梁勢力が急激に膨張した。

秦と戦えるのは、項梁率いる楚軍だけとなったのである。目まぐるしい展開ダ・・



しかし、黥布はまたもや大勢力の傘下には入らなかった。

黥布の本拠地・陽と、項梁の本拠地・会稽はそんなに遠くは無い。

やはり黥布は天下を狙っていたのではないだろうか・・・。

しかし、そんな独立不羈の黥布も、さすがに項梁勢力にはかなわない。^^;

黥布は、項梁が北上し揚子江を渡った時に項梁に秦討滅軍参加を申し入れたのである。

勿論、項梁は黥布の力量と獰猛さを知っていたので、喜んで黥布の参加を受けた。

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黥布は天下を狙いながらも、なかなかチャンスが巡って来ず、なんだか運命に弄ばれている感じがする。

それが、彼の運命なのか、彼はこの後も不遇を託ってゆくのである・・・・・



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