第五話:左遷



皇太子廃立問題は解決したものの、戚姫の子・劉如意は十歳で趙王に任じられた。

劉邦は自分の死後、如意は危険を逃れられまいと心配した。相手はあの呂后である。

劉邦は気が晴れず、悲しみの歌を口ずさむことが多くなった。

臣下達は、皇帝が何を思い煩っているかわからなかった。


あるとき、周昌の部下で符璽御史(ふじぎょし・諸侯や将軍に任命するときに授ける割符や印綬を管理する)であった

趙堯(ちょうぎょう)が進み出て言った。


趙堯 「陛下の御心が晴れませんのは、趙王(劉如意)さまが幼いうえに、

戚夫人さまと呂后さまの仲が思わしくない為ではありませんか。

陛下がお隠れになった後、趙王さまがご自分で身を守れないからでございましょう。」

劉邦 「そうだ。わしは密かにそれを心配している。

どうすればよいのか・・・・」

趙堯 「位高く剛毅で、呂后さま皇太子さま臣下達が普段から敬意と遠慮を抱いている人物を

趙王さまの大臣に任命するしかありません。」

劉邦 「うむ、わしもそう考えていたのだが、誰がよかろうか。」

趙堯 「御史大夫の周昌は、人柄が忍耐強く、素朴で正直です。

その上、呂后さま皇太子さま大臣達まで彼に敬意を払い、遠慮しています。

適任なのは周昌だけです。」

劉邦 「そうだな。しかし、彼にとっては左遷になってしまうな・・・。」


さっそく劉邦は周昌を召し出した。

劉邦 「わしは君にどうしても頼みたいことがある。

君はわしの為に趙王の大臣になってくれ。無理は承知だ。」

周昌は泣いて言った。

周昌 「へ、陛下・・・。

わたくしは最初から陛下のお供をして参りました。

一体、何のために途中で諸侯の下に追いやるのですか。」

劉邦 「それが左遷であることは充分承知している。

しかし、わしは趙王のことを密かに心配しておるのだ。

考えてみると、君以外に適任者はいないのだ。

君は諦めて、趙王の下へ行ってくれ。」


劉邦はむりやり周昌から御史大夫の位を取り上げ、趙王の下へ行かせた。

周昌が趙へ行くと、劉邦は御史大夫の印を掌に乗せて転がしながら言った。

「誰を御史大夫にしようか。」

そして趙堯をしげしげと見つめて言った。

「趙堯以外にはいないな。」


こうして周昌は趙堯に御史大夫の位を奪われた。


HOME 第六話へ