第五話:乱世の終焉




この年の年初めの朝会は、長楽宮落成の祝賀という意味も込められていた。

儀式は夜明け前から始まり、謁者(取次ぎ役)が儀式進行役を務め

臣下を誘導して定められた順序通りに門をくぐらせた。

宮殿の中庭には馬車・騎歩兵・近衛将校が整列し、武器を飾り旗が立ててあり、

参内者には「小走りせよ!」と注意が与えられる。

礼を守れない者は、そのつど引き立てられていく。


正殿の下には郎中(侍従官)が階段を挟んで数百人立ち並ぶ。

将軍・功臣などの武官は序列に従って西側に並んで東を向き、

丞相などの文官は東側に並んで西を向く。

少しでも体を崩したり、礼にそぐわない者がいると

大行令(九卿のひとつ。後に大鴻臚に改名。賓客の対応を掌る)が介添役とともに叱って指図する。


高祖劉邦がお出ましになると

次々と警蹕(蹕は通行人を止めるの意)の声が伝播してゆき、百官が旗をささげる。

諸王や諸侯から初まり六百石の官僚に至るまで、順序に従って呼び出され、

劉邦の御前で拝謁して祝賀の辞を申し上げる。

蕭何や張蒼らは礼に合致した行動を普段からとっていたために焦ることはなかったが、

普段から傍若無人な振る舞いをしていた武官諸侯らは大いに焦り、

みな恐懼してガチガチになり非常にうやうやしい態度をとった。


拝謁の儀が終わると、酒宴が開かれた。

酒宴に参加する臣下は全員平伏したままであり、身分の順に従って立ち上がり

うやうやしく劉邦の長寿を願い寿ぐ。

常に御史が取締りに当り、礼法通りにしない者を引っ立てていく。

酒が九回まわると謁者が「酒の儀は終わった。」と告げる。


午前中ずっと酒宴が続いたが、騒いだり暴れたりする者は一人もいなかった。

叔孫通式宮中儀礼はこうして荒くれ者達を統御した。



儀式が終わると劉邦は大層疲れた顔をしていたが、満足そうにこう言った。

「わしは今日はじめて、皇帝がどれ位貴いのかを知ったぞ。」

なんともマヌケな発言である。^-^;;



そして叔孫通を呼び出して太常(九卿の一つ。祭祀儀礼を司る)に任命し、金500斤を与えた。

叔孫通はこの折にと進み出て言った。

「臣の弟子達は長い間わたくしに付き従い、この度の儀式準備にも協力を惜しみませんでした。

なにとぞ、彼らにも官職をお与えくださいませ。」

劉邦はいたく機嫌が良かったので、

叔孫通の弟子達をことごとく郎(郎中令の属官。宮廷門を護る。天子の護衛もする)に任命した。

叔孫通は以前、不平を言う弟子達に謎めいた発言をした。

「まあ、待ちたまえ。君達を忘れているわけではない。」と。

その意味するところはこのことであったのだ。


叔孫通は退出すると早速弟子達を集め、言った。


叔孫通 「何か官職を下さるように天子さまにお願いしたところ、

天子さまは君たち全員を郎に任命してくださった。

そして金を五百斤もいただいた。この金は君たちのものだ。

今までよく私に付き従ってきてくれた。皆で平等に分けたまえ。」

弟子達 「おおお!!

叔孫先生こそ真の聖人だ!

現代でのなすべきことをよくご存知でいらっしゃる。」



叔孫通。並みの人物ではない。


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