第三話:朱家

朱家は季布を救うため、一頭だての馬車に乗って洛陽に向かい、汝陰侯夏侯嬰に面会を申し込んだ。



夏侯嬰は、朱家と面識があった。

そして、朱家が天下に隠れもない「任侠の士」ということもあり、粗略には扱われなかった。

夏侯嬰は数日間にわたって朱家のために酒宴をはり、もてなした。



朱家は、酒宴の最中に例の件を切りだした。


朱家 「季布という人には、どんな大罪があるのですか?なにやら厳しく追及されているそうで」

夏侯嬰 「ああ、季布か。彼は項羽のために働き、天子さま(劉邦のこと)を度々窮地に追いやったのだ。

それで天子さまは彼をとても憎んでおられるのだ」

朱家 「そうですか・・・。では、夏侯嬰どのから見て、季布はどのような人間ですか?」

夏侯嬰 「うーん・・・。季布は賢人だな。彼は素晴らしい名声を持っているし、何よりも義に篤い人間だ」

朱家 「私もそう思います」


朱家はここが正念場とばかりに説いた。

朱家 「臣下というものは、自分の主君のために働くものです。

季布も、たまたま項羽が主君だったから項羽に尽くしたのです。彼は義務を果たしたと言えましょう。

項羽の配下だった者を全て殺すことはできるのでしょうか?

天子さまは、季布を重罪人として追及なされていますが、

それは天子さまの心の狭さを表していることにほかなりません。

私的な怨恨を晴らそうとし、ただの男一人を追及なされるとは、なんとも心の狭いお方で。・・;

季布ほどの有能の士を厳しく追及すれば、彼は匈奴か南越に亡命してしまうでしょう。

国を支えるのは『人』です。

季布を厳しく追及すれば、敵国を強くしてしまいます。

こんな簡単なことに、なぜ天子さまはお気づきにならないのでしょうか。

天子さまが自らお気づきにならないのなら、夏侯嬰どのが諌めてみては?」


夏侯嬰は、季布が朱家の家にかくまわれていることを知った。

彼は、朱家が義侠の人であるということを知っており、「彼ほどの人間が季布をかくまっているのなら」

ということで、夏侯嬰は季布を救済することにした。

(ちなみに、夏侯嬰は名将韓信を見出したことがあり、人を見抜く眼を持っていた。)



夏侯嬰は劉邦がくつろいでいる時に拝謁し、朱家の示唆した内容を述べ、

項羽の配下の追捕令の取り消しを求めた。

劉邦は「それもそうだな」と思い、追捕令を取り消した。そして、季布を取り立てることにした。



ついに季布は、大手を振って太陽の下を歩ける身分に戻れたのである。

これも周氏・朱家・夏侯嬰等、『義』を知る人々の活躍のお蔭であった。


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