第二話:信頼の糸

濮陽の周さんにかくまわれていた季布だったが、

有名人なだけに、「周さんの家でかくまわれてるらしい」という噂が広まってしまった。



追い詰められた周さんは、自刃を覚悟して季布に申し出た。


「季布さまに対する追跡は厳重で、もうここがばれているかもしれません。

私の命も、あなたの命も風前の灯です。

いまから言うことをお聞き入れ下さらねば、私は自刎します。

あなたとの義に背く行為であることは重々承知です。」

季布 「周さん、やめてください。私はあなたにずっと助けてもらっています。

あなたの言いつけなら何でも守ります。あなたの策を聞かせて下さい」

「では・・・奴隷のふりをしてもらいたいのです。

頭髪を剃り、首かせをはめ、ぼろ布を着ていただきたいのです。

そして、奴隷を運ぶ運搬車で魯まで行ってもらいます。

そこで、あなたを朱家に売り渡します。これで、あなたも私も安全でしょう。

しかし、あなたとの約束を破ったことになってしまいます」

季布 「いやいや。命あっての約束です。今は、あなたの策を取るしかありません。

あなたの言葉に従いましょう。それに、朱家どのなら面識もあります」


こうして、季布は魯の朱家のもとに売り渡された。

朱家は、「この奴隷は季布に違いない」と見抜き、

自分の息子に、「仕事はこの奴隷の好きなようにやらせろ。食事は必ず一緒にしろ。

行動は自由にさせてやれ」と言いつけた。

要するに、季布を気遣ってやれと命じたのである。



そして、朱家は季布を根本的に助ける為にはどうすればいいか考えた。

答えはすぐに出た。

漢帝国の季布追捕令を取り消させればいいのだ。

しかし、そんな簡単に漢政府を動かせる訳がない。



しかし、朱家は諦めなかった。

面識のある汝陰侯の夏侯嬰を訪ね、説得することにしたのである。

夏侯嬰は、劉邦が項羽と戦っていた時には御者として何度も劉邦のピンチを救ってきた。

いわば、劉邦の命の恩人であった。

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季布はいままで、絶対に約束を破らず、言ったことは必ず守り、人のために尽くしてきた。

その「信頼」というものが、季布を守ってくれるのであった。


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