陳平は二十歳を過ぎ嫁をもらってもおかしくない年齢に達したが、 誰もが貧しい陳家の若造に娘をやろうとはしなかった。 陳平自信も貧しい家の出の娘と結婚するのを潔しとしなかった。 こうして数年が過ぎていった。 陳平は日々勉学に励み、黄老の学を究めた。 そんなある日、陳平は「金持ち張さんの孫娘が結婚相手を探している。」と耳寄りな情報を手に入れた。 詳しくその娘の情報を集めてみると、 五回嫁にいったがその度に夫が死に、もう誰も娶ろうとはしなくなった いわくつきの娘であることが判った。 しかし陳平はこの娘と結婚しようと考え、張家の主・張ばあさんに自分を売り込もうと考えた。 あるとき陽武の街で有力者の葬式があった。 貧しい陳平はアルバイトとして雇われることとなった。 勿論、張家が一族揃って出席すると知っての行動であるが。 陳平は誰よりも早く葬儀場に来て仕事を始め、皆が帰った後も一人働いた。 金持ち張ばあさんは陳平の容貌に惹かれ、葬式の間ずっと陳平の行動を見ていた。 そして、陳平の容姿もさることながら行動も立派である、と思い 仕事を終えた陳平のあとをつけて彼の家までコッソリついていった。 陳平の家は陽武城外の貧民窟にあり、破れたむしろを掛けて玄関門代わりにしていた。 張ばあさんは陳家の貧窮さにも驚いたが、陳平ほどの美丈夫が 何故こんな所に住んでいるのだろうとも思った。 ばあさんが門代わりのむしろに近寄ってみると、地面に馬車の轍が多数あるのに気付いた。 しかも貴人の乗る馬車の轍であった。 ばあさんは、「こんなあばらやなのに、陳平と交遊しようと貴人がこんなにやってくるとは・・・」と感心した。 ばあさんは自分の家に帰り息子の張仲に宣言した。「私は孫娘を陳平にやることに決めたよ。」 張仲は驚愕し、「陳平は家が貧しいのに働きもせず無駄に勉強ばかりしています。 しかも彼の振舞いは陽武じゅうで笑われています。そんなところには娘をやれません。」と反対した。 しかし張ばあさんは落ち着いて言った 「陳平ほどの容姿を持ち、彼のような立派な行動をする者で 死ぬまで貧賤のままでいた例はありません。」 こうして張ばあさんの鶴の一声で陳平はこの孫娘を娶ることとなった。 そして陳平が激貧なので、張ばあさんは結納金と称して莫大な金を孫娘に渡した。 孫娘には、「平が貧しいからといって、お前は謹みを失ってはいけないよ。 兄の伯さんには父親に仕えるように接しなさい。兄嫁さんには母親と接するように仕えるのですよ。」 と訓戒した。陳伯兄さん、いつの間に再婚してたんですか・・・?^^; 陳平は張家の娘を娶ってからは暮らしがずっと豊かになり、 知識人との交遊範囲も以前よりずっと広くなった。 陳平夫婦は幸せに暮らし、兄陳伯夫婦も以前とは比べ物にならないくらい豊かに暮らした。 だが、張耳・陳余と同じ軌跡を辿っている女たらしと思うのは管理人だけであろうか・・・ あるとき、陳平の住む里で祭りがあった。 陳平は祭りの仕切り役に選ばれた。 里人が祭りのために寄進した祭肉を皆に公平に分配するのも仕切り役の役目だった。 陳平は祭りを手際よく進め、祭肉の分配は文句のつけようもないぐらい公平だった。 里人たちは陳平の才能に驚き、皆が陳平を賞賛した。 里の長老達も、「よくやるねぇ、陳家の若造は。」と褒め称えた。 しかし、陳平は不機嫌そうだった。 「俺に天下を切り盛りさせたら、この肉のようにうまくやれるのに・・・」 と・・・ |