呂后専制の時代、斉の田生という人物が劉沢の下へ来て客となった。 田生は劉沢の為に計略を練り、劉沢は喜び田生に金二百斤を贈って酒宴を開いた。 しかし田生は金をもらうとすぐさま斉へ帰り、音沙汰がなかった。 二年後、劉沢は人を遣わして田生に言った。 「先生は一向に力になってくださらぬが・・・。」 田生は長安へ向かい、劉沢には会わずに大邸宅を借りて住み、 息子を呂后の寵臣張卿(宦官)に仕えさせた。 数ヶ月の後、田生は張卿を自宅に招待し、宴会を開いた。 張卿が田生の家に着くと、田生の家はまるで列侯邸のようであり大変驚いた。 宴がたけなわな頃、田生は張卿に言った。 「太后さまは高帝を支えて天下統一を助け、功績は絶大であります。 太后さまは自分が年老いたのにも関わらず一族が微力なので 呂産を代王に立てたいと考えのようですが、自分から言い出すのを憚っておられます。 大臣達が反対するのを恐れてのことです。 今、あなた様は最も寵幸され大臣がたにも尊敬されております。 あなた様は大臣達に太后さまのお考えを仄めかし、 それを太后さまのお耳にいれた方が良いのではありませんか。 呂氏が王となれば、あなた様はその功績をもって万戸侯になれます。 あなた様は内臣です。太后さまの意思を知っていながら 知らぬ振りをしていれば必ず災難が身に降りかかりますぞ。」 張卿はもっともな意見だと思い、大臣達にそれとなく仄めかし、呂后にも言上した。 呂后は朝議の時、大臣達の意見を探ったところ、大臣達は呂産を代王にするよう要請した。 呂后は喜び、張卿に千金を下賜した。 張卿は田生に感謝し、半分の五百金を田生へ与えようとした。 田生は受け取らずに言った。 「呂産が王になったこと、大臣達はまだ納得しておりません。 劉一族の長老である大将軍の営陵侯劉沢は特に不満を抱いているようです。 あなた様は太后さまに説き、十数県を割いて劉沢を王にすれば、 彼は王位を得て喜び、呂氏は益々安泰になりましょう。」 張卿はすぐさま呂后にこのことを言上した。 呂后は、妹の呂の娘が劉沢の妻になっていることもあり、 ついに斉から瑯邪を分離させ劉沢を立てて瑯邪王とした。 |