第四話:匈奴を一族に・・・


この当時、匈奴は冒頓が単于(ぜんう。各部族の君長とでもいうべきか)であり、

兵士は強く、弓の射手は三十万、度々漢の国境地帯に侵入し被害を与えた。

これに頭を悩ませた劉邦は、劉敬に対策をたずねた。

劉敬 「陛下の天下はいま安定したばかりで、士卒は戦いに疲れております。

ですから、武力で匈奴を屈服させることはできません。

また、冒頓は父を殺して単于の座を奪い父の妻妾を我が物とし、

武力を恃みとし威を張っています。

ですから仁義を説いても説得することはできません。

今できることは、匈奴を屈服させることではなく、

匈奴の子孫を後世、漢の臣下にする策を取ることです。

しかしながら、陛下はこの策を実行することができないかと思われます。」

劉邦 「なにっ。

真によい策ならば、わしは必ず実行できる。一体どうしようというのだ。」

劉敬 「陛下嫡出の公主(娘)を単于に降嫁させ手厚い贈り物をするならば、

冒頓は贈り物が手厚いことを知って蛮夷ながらも陛下を慕い、

必ずや公主を閼氏(正妻のこと)とするでしょう。

子が生まれれば太子となり、いずれは単于に推されるでしょう。

理由は簡単です。漢の莫大な贈り物を貪り続ける為です。

陛下は季節ごとに匈奴に乏しい品物を贈り、しばしば単于の安否を問い、

弁舌の士を帯同し、それとなく単于に礼節を諭すようにすればよいでしょう。

冒頓が存命でも彼は陛下の女婿であり、死ねば陛下の外孫が単于になります。

外孫で、祖父と対等の礼をとった者はおりません。

このようにすれば、兵を用いずに次第に臣従させることができるでしょう。

ただ、陛下が公主を遣わすのを躊躇われ、

一族の女や後室の者を公主と偽り称して遣わされるならば、

この策は失敗しましょう。」

劉邦 「・・・・・・よし。わかった。」


劉邦はこの策を実行しようと、本気で長女の魯元公主を遣わそうとした。

しかし、妻の呂后が黙っているはずがない。

「妾にはただ太子一人娘一人しかおりませんのに、どうして娘を匈奴に捨てられますか。」

と泣き続けたために、結局魯元公主を降嫁させることはできなかった。

劉邦は、劉敬が失敗すると明言したのにもかかわらず、一族の女を公主であると偽り称して

単于に遣わすこととし、劉敬を付き添わせて匈奴と和親の約束を結ばせた。


匈奴を一族に取り込み臣下の礼を取らせる劉敬の策は失敗し、

以後漢は匈奴に悩まされ続けることとなる。


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