第一話:辺境の守備兵


劉敬という人は斉出身で、元の姓を「婁」といった。

楚漢動乱の時、何をしていたか伝わっていない。

若年だったのかも知れない。


高祖五年(紀元前202年)、項羽が敗死し天下が平定された。

劉邦は帝位に就き洛陽を都とし、兵は解散した。


婁敬は戍卒(国境警備兵)として隴西へ向かう途中、高祖が洛陽にいることを知った。



婁敬は自分が牽いていた荷車の引き綱から身を外し、

羊毛皮の上着を着たまま高祖に会いにいった。

婁敬は斉出身の魯将軍に取り次ぎを頼んだ。

婁敬 「私はお上に謁見し、国益について申し上げたいのです。」

魯将軍 「うむ。だが、そのみすぼらしい身なりはまずい。

謁見用に美しい衣服を与えるから着替えたほうがよい。」

婁敬 「私は絹の衣服を着る身分ならば絹の衣服を着て謁見します。

粗末な衣服を着る身分ならば、その衣服を着たまま謁見します。」

魯将軍 「そうは言っても陛下の御前だ。

着がえた方がよかろう。」

婁敬 「いえ、将軍のお言葉といえども着がえません。」


婁敬の強情に折れた魯将軍は参内し、劉邦に婁敬のことを伝えた。

劉邦は「面白い奴だ。」と思い、婁敬を引見することにした。


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