劉敬という人は斉出身で、元の姓を「婁」といった。 楚漢動乱の時、何をしていたか伝わっていない。 若年だったのかも知れない。 高祖五年(紀元前202年)、項羽が敗死し天下が平定された。 劉邦は帝位に就き洛陽を都とし、兵は解散した。 婁敬は戍卒(国境警備兵)として隴西へ向かう途中、高祖が洛陽にいることを知った。 婁敬は自分が牽いていた荷車の引き綱から身を外し、 羊毛皮の上着を着たまま高祖に会いにいった。 婁敬は斉出身の魯将軍に取り次ぎを頼んだ。 |
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婁敬 | 「私はお上に謁見し、国益について申し上げたいのです。」 |
魯将軍 | 「うむ。だが、そのみすぼらしい身なりはまずい。 謁見用に美しい衣服を与えるから着替えたほうがよい。」 |
婁敬 | 「私は絹の衣服を着る身分ならば絹の衣服を着て謁見します。 粗末な衣服を着る身分ならば、その衣服を着たまま謁見します。」 |
魯将軍 | 「そうは言っても陛下の御前だ。 着がえた方がよかろう。」 |
婁敬 | 「いえ、将軍のお言葉といえども着がえません。」 |
婁敬の強情に折れた魯将軍は参内し、劉邦に婁敬のことを伝えた。 劉邦は「面白い奴だ。」と思い、婁敬を引見することにした。 |