第三話:奇貨居くべし その二


呂不韋は華陽夫人が喜んでいると姉から聞かされると、続けて言上した。

呂不韋 「わたくしは『容姿をもって人に仕える者は、容姿が衰えれば愛がゆるむ』

と聞いております。

現在、華陽夫人さまは太子さまのお側にお仕えして愛されていらっしゃいますが、

お子さまがいらっしゃいません。

今のうちに王子のうちで賢明で孝行なお方とお近づきになり、

守り立ててお世継ぎとし養子となさっておけば、何も心配はございません。

ご養子が即位すれば、ご夫人は尊ばれますし、

もしご夫人が先立たれても、その権勢はゆるぎません。

花の盛りに根を固めておくべきです。

容姿衰え寵愛失われた折にこのことを言上できましょうか。

わたくし思うに、子楚どのは賢いお方です。

子楚どのは、太子さまの王子のなかでも十数番目のお子で、

とても世継ぎにはなれないことを自分でもよくわかっておられます。

また実の母君も太子さまに愛されておらず、華陽夫人さまに心を寄せておられます。

子楚どのをご養子にして世継ぎとすれば、ご夫人はいつまでも秦国で

めでたくお暮らしになれましょうぞ。」

華陽夫人はこのことを不安に思っていた矢先だったので、呂不韋の意見を喜んで受け入れた。


華陽夫人は太子安国君に侍った日、さりげなく切り出した。

華陽夫人 「太子さま。十数番目のお子さまで、子楚さまを憶えていらっしゃいます?」

安国君 「ああ。確か趙で人質になっていたな。」

華陽夫人 「子楚さまは趙で賓客や名士と交わり、賢明なお方なようです。

それに遠く趙から太子さまやわたくしのことを気遣い、

思い出しては涙しているそうですわ。」

安国君 「うむ。子楚の噂はかねがね聞いておるぞ。」

華陽夫人 「・・・・・・。」

安国君 「ん?どうした。なにを泣いておる?」

華陽夫人 「うう。うううっ。

わたくしは太子さまのお情けで奥方として席をいただいておりますが、

太子さまのお子さまを産むことができぬ不幸せ者です。

なにとぞ、子楚どのをお世継ぎになさってくださいませ。

先々まで太子さまやわたくしを大事にしてくれましょう。」

安国君 「これ、もう泣くでない。

わしもそれを考えていた。いずれ子楚を呼び戻し、世継ぎとする。」

華陽夫人 「太子さま・・・本当ですか。」

安国君 「ああ。約束だ。

約束のしるしとして、そなたとわしで割符を持とう。」

華陽夫人 「あ、ありがとうございます。」

こうして(半ばフィクションです^-^;;)子楚は華陽夫人の養子となり世継ぎとなった。


安国君と華陽夫人は、趙にいる子楚に多くの贈り物を与え、

呂不韋には子楚の守り役になるように依頼した。

子楚の評判はこのことがあってから一層高まり、名は諸侯の間に響き渡った。


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