第八話:大きな賭け



随何は自らの命を懸け、黥布と面会した。



随何「はじめにお聞きしたいことがあります。

九江王さまは、楚とどのような関係があるですか?」



黥布「私は、楚に北面して臣下として覇王項羽に仕えている」



随何「それは違いましょう。

かつて斉が背き覇王項羽が討伐に向かったとき、

あなたは1万の兵力を持ちながら、たった4000の兵しか出さず、指揮官のはずの九江王さまは仮病を使ったではありませんか。

それに、楚の首都・彭城が漢軍に落とされたとき、

あなたは項羽の救援命令を受けていたにもかかわらず、仮病を使って命令を無視し、日和見をしたではありませんか。


これらの事実から、九江王さまが「覇王項羽に仕えている」というのはウソになります。

そして、仕えてもいない覇王項羽にまだ頼ろうとなされている・・・。

これは大王さまのおん為にはなるまいと私は思います。

要するに、あなたは覇王項羽と対等な王なのです。



今、九江王さまが楚に背かない理由は、「楚が強く、漢が弱い」とお思いだからでしょう。

しかし、本当に漢は弱いのでしょうか・・・?


漢王は成皋(せいこう)(けいよう)を堅固にし、兵糧は河を下って運び込まれ潤っています。

一方、覇王項羽は、成皋・陽まで常に遠征をしなければなりません。

兵糧線はのびきり、千里離れた彭城から年寄りや子供が兵糧を苦労して運んできます。

しかし、輸送途中で、漢に味方する彭越が現れ、楚の兵糧を片っ端から奪ってゆきます。

これでは、飢えて項羽は戦もできません。

漢は確かに弱いかもしれませんが、守りは鉄壁なのです。いつ項羽が攻めてきても、耐えられるのです。

逆に、楚は強いかもしれませんが、長期戦に極端に弱いのです。


私の分析は間違っているでしょうか・・・」



黥布「・・・・・・・・・・・・。随何どのの言うとおりである」



随何「ありがとうございます。


しかし、ここまで情勢を理解なさっているにも関わらず、

九江王さまは万全の態勢にある漢を頼ろうとせず、危なっかしい状態の楚に頼ろうとなされています。

これは、王さまの考え違いではないかと思います。


私は、九江の兵1万だけで、楚を滅ぼせるとは思いません。

漢王も、もちろんそんなことは望んでいません。

漢王が望んでいるのは、九江王にも漢の天下取りに参加して欲しいということなのです。


今、九江王さまが楚に反旗を翻せば、項羽は斉にとどまらざるを得ないでしょう。

そうすれば、その間に漢が躍進し、天下を取ることは間違いなしとなるのです。

九江王さまは、漢の天下取りにとって大切なお人なのです。



もし、私のお話に賛同下さったなら、

物惜しみしない漢王は、あなたに広大な領地を割くでしょう。

漢王が物惜しみしないことは有名ですから、あなたが今以上の領土を持つのは間違いありません」


黥布「そうか・・・・・・・・・。随何どのの言われることは正しい。

私は漢王に賭けてみよう。私は漢に降る」


随何「おおっ。ありがとうございます。

では、早速使者を漢王に遣わして下され」


黥布「わかった」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



しかし、項羽も必死だった。

四方に敵を抱え、頼むは九江王黥布だけであった。

ちょうど随何と面会したときに、項羽からの使者も来ていたのだ。

黥布は項羽の使者とも面会し、漢に傾いていた心が揺らいだ。


随何は、「これはマズイ!!」と思い、窮余の策を取った。

随何は、黥布が項羽の使者と面会しているときにズカズカと会見場に入り、

いきなり楚の使者よりも上座に座り、叫んだ。

「九江王は既に漢に味方された!

楚人は去れ。無用だ!!」



黥布は愕然とし、楚の使者は怒って席を立った。

随何はすかさず言った。

「九江王さまが漢に味方することはもう決まってしまいました。

今、席を立った楚の使者を帰国させずに殺し、直ちに兵を挙げ、漢と協力されることです」



黥布は唖然としていたが、

「わかった。これをキッカケにして兵を挙げ、楚を討つ!」

と決心した。



こうして、黥布は漢陣営に属することとなったのだが・・・・・



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