第五話:劉邦の子どもを救う


夏侯嬰の働きで劉邦の二人の子どもを救い出すことができたが、

子どもが乗ったことによって馬が疲れ、だんだんスピードが落ちてきてしまった。

楚軍は、すぐ後ろに迫ってくる。

劉邦は、「馬が疲れたのは、二人の子どもが乗ったからではないか?」と思い、

自分の子ども二人を何回も馬車から蹴落とし、捨てていこうとした。


夏侯嬰「あ、兄ィ!!何をするんだ!!」

劉邦「馬が疲れてきている。子どもを降ろせば我々は逃げられる」

夏侯嬰「そ、それはあんまりだ!!あっしが拾ってきます」

劉邦「いや、かまわん。彼らは捨てていく」

しかし、夏侯嬰は無言で馬車から降り、二人の子どもを抱えてまた馬車に乗せた。

しかし、劉邦はまたも子どもを突き落とした。

劉邦「余計なことをするな!さあ、早く逃げよう」

夏侯嬰「あ、兄ィ。あっしはそんなやり方には付いていけねえ。兄ィの子どもは見捨てられねぇ」

劉邦「嬰!!斬るぞ!余計なことをすると斬るぞ!!!」

しかし、夏侯嬰はひるまずに馬車から降り、二人を抱えてまた馬車に乗せた。

劉邦「嬰!!斬られたいのか!!子どもは捨てていくと言ったのが分らんのか!!」

夏侯嬰「兄ィが斬りたいなら斬ればいい。ただあっしは兄ィのやり方には賛成できねえだけだ」


劉邦は、本当に夏侯嬰を斬ろうとした。

が、夏侯嬰を斬ってしまうと馬車を操縦できる人がいなくなってしまう。

劉邦は、夏侯嬰を斬りたくても斬れなかったのである。

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結局、最後には楚軍を振り切り窮地を脱し、陽城に逃げ込めた。

夏侯嬰に救われた二人の劉邦の子どもとは、

後の二世皇帝・恵帝と、後に張敖の嫁になる魯元公主であった。

このことがあって以来、夏侯嬰は二人の生母である呂后にいたく気に入られ、

劉邦死後の呂后専制時代にも粛清の対象となることは無かった。

これも、夏侯嬰の仁徳のなせる業であろうか。


劉邦は陽城に逃げ込んだがすぐ項羽に包囲され、またも窮地に陥った。

しかし、将軍の紀信が劉邦の身代わりになって漢王に成りすまし、

「漢王は降伏するぞ!」と偽り、陽城東門から項羽の本陣に向かって馬車を進めた。

楚軍は皆、万歳を叫び紀信の馬車の周りに集まった。

その隙に、劉邦らは西門から脱出した。


偽漢王の紀信は、なんと項羽に顔を見られるまで偽者だとバレなかった。

が、項羽によって偽者と見破られ、騙された項羽は烈火の如く怒った。

紀信は激しく項羽を罵り、焼き殺された。


一方、残された陽城には守将として周苛を置いた。

これまた、死は約束済みだった。

彼は寡少な人数で城をよく守ったが、結局項羽に城を落とされてしまった。

周苛は「降伏すれば将にしてやる」という項羽の誘いを断り、項羽を激しく罵り烹殺された。

項羽はその勢いで成皋城に逃げ込んでいた劉邦を囲んだ。

劉邦は「こりゃ勝ち目はない・・・」と諦め、

将軍・兵士全員を置き去りにして、夏侯嬰と二人っきりで遁走した。

そして二人は黄河を渡り、近くにいた韓信・張耳の軍を強奪した。


目の回るような局面の変化だが、こうして劉邦はまたも勢力を挽回した。

その間、ずっと夏侯嬰は劉邦に付きっきりだった。

まさに、劉邦を守る為に生まれてきた男である。

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