第七話:権力・欲望

前回、李良が秦帝国の大軍と遭遇した、という話をした。

秦の正規軍は遅ればせながらも、動き始めたのである。そして、趙のすぐそばまで来ていたのである。


秦帝国の正規軍はすでに陳渉をたたき潰し、陳渉は配下に裏切られ死んでいた。

風雲児陳渉は、張耳と陳余の意見に耳を傾けなかったがために命を落とした、とも言えよう。


管理人の勝手な妄想的解釈はいいとして、

二人の下に「秦の正規軍迫る」という報が次々と入ってくる。

「これじゃぁ、兵数が足りんぞ!」と二人は焦った。

そこで陳余は、軍勢を集める為趙国から離れ、北方の地常山へ向かった。

この、二人の別行動が、運命を分けた。



陳余が趙を離れた直後、秦の正規軍がもうそこまで来ている、という情報が入った。

張耳は、「趙王さま、現在の兵力では勝ち目はありません。

口惜しいですが、逃げ、要害にこもりましょう。」と言った。

趙王も、「うむ。もう時間が無い。早く逃げ出そう!」と賛同し、

軍勢を率いてそそくさと鉅鹿城(きょろく)に逃げ込んだ。



そのころ、趙最大の都市邯鄲は無人となり、徹底的に破壊されていた。

なぜなら邯鄲は都市として最大なだけではなく、城としても頑強なものだったからである。

やはり正規軍を指揮していた人物は、只者ではなかった。

彼の名は、章邯(しょうかん)。彼の指揮する軍隊が秦帝国の最後の切り札だった。


章邯は続いて、張耳・趙王のこもる鉅鹿城を囲んだ。

うん十万の兵に囲まれた張耳は、

「兵糧攻めかよ!これじゃあジリ貧じゃないか。囲まれてるうちに兵糧がなくなっちまう」

と分析し、趙王に

「このままでは、我々は死にます。

私が秦帝国に反乱している国々に檄文を書き、鉅鹿の救援に来させましょう」

と進言した。

張耳お得意の外交戦略(檄文)である。


檄文の内容は、

「我々が鉅鹿で滅ぼされれば、次はあなた達の番ですぞ。

私達は鉅鹿で秦正規軍を引き受け、あなた達が滅ぼされるのを防いでいることになります。

ここで一致団結して、秦軍を滅ぼそうじゃないですか!

バラバラに戦ったんじゃ勝てません。

あなた方が鉅鹿城に集まって秦軍に戦いを挑めば、我々は城から打って出て、挟み撃ちできます。

秦を倒すのは、今しかありません!」

というものだった。


はたして、鉅鹿に諸国の軍勢が集まった。趙を離れていた陳余も来た。

しかし、どの軍も、秦の軍勢とは戦おうとしない。

なぜなら、秦の正規軍の数と最新かつ強力な武器を見て各国の軍は

「こりゃ、勝てんわ。いつでも逃げれるようにしとこ〜」と思ったからであった。


陳余も同様であった。

「こりゃ、勝てん。張耳さんには悪いが、死んでもらおう。

趙王・張耳、二人して死んでくれれば、趙の実権はわしの手に・・・・ふふふ」

と、静観の姿勢を取った。


焦ったのは張耳であった。

目の前にいるのにどの軍も助けてくれない。

その上、死を賭してでも助けてくれると思っていた陳余までもが助けてくれない。

城内では飢えが始まり、落城は必至であった。


「くっそ〜〜陳余め!俺を見殺しにするつもりか!!」

怒った張耳は、遂に陳余のもとに使者を出した。

使者に選ばれたのは、張黶・陳沢(ちょうえん・ちんたく:二人とも、それぞれ張耳・陳余の親戚)であった。

使者の二人は秦軍の包囲網を何とか破り、服装もぼろぼろになりながら陳余のもとへ辿り着いた。


「あなたは張耳どのと共に、死を誓い合った仲間ではなかったのですか。

お互いの為に死ぬんじゃなかったんですか!

張耳どのは間もなく死ぬでしょう。

どうしてあなたも、秦軍に突っ込み斬り死にしないのですか。

あなたが突撃してくれれば、張耳どのが助かる可能性だってあります!」

と詰め寄った。


陳余は、

「あんた達の言うこともわかる。しかし、私が秦軍に突撃しても全滅間違いない。

そして、今、張耳さんと一緒に死ねない理由がある。

あとで張耳さんの為に秦に報復しなくてはならないのに、命が無かったら報復すらできないではないか。

今、秦軍に向かって死んでも何の役に立つ?」

と冷笑した。


使者の二人は激怒し、

「張耳どのが死んでしまってから信義を立てたって、意味がありません!!

死を共にして信義を立てることが大切だとは思われませんか!!」

と詰め寄った。


陳余は、「うっせ〜な、こいつら。そうだ、こいつらも死ねばいいんだ」と思い、

「分かった。5000人に突撃させよう。指揮官は、君達だ」

と、言い渡した。

張黶と陳沢は「こいつ、俺達を殺すつもりだな」と気付いたが、

すでに陳余の救援は無いことが判っていたので、

「わかりました。行きましょう」と請け負った。死は約束済みの役であった。


張黶と陳沢は5000人を率いて秦軍に突入した。

5000人と張黶・陳沢はあっという間に秦軍に包み込まれ、文字通り全滅した・・・。


張耳は援軍を諦めざるをえなかった。

鉅鹿城内の飢えは、益々激しくなった。

(追記:中国では人を食う風習があり、飢えがひどくなると、餓死者を食った。
餓死者を食い尽くすと、子どもを交換しあって殺して食った。ちなみに、犬も食われた)



そんな時、項羽の率いる楚軍が鉅鹿に到着した。

項羽は秦軍に向かって、一斉突撃を命じた。
(秦20万VS楚7万)

項羽は勝った。秦兵士20万人を捕虜にした。すげぇ・・・


張耳と趙王は助かったのだ。

張耳と趙王はこぞって項羽の前に行き、

「あなたのお蔭で助かりました。

これからはあなたの配下になり、秦を滅ぼすお手伝いをさせて下さい」

と謝した。


鉅鹿に来ていた傍観者たちはみな張耳を見習い、項羽の配下となった。


もちろん、陳余も・・・・

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