第三話:韓王から代王へ韓の地を落とした韓王信は、晴れて正式に韓王の位についた。 しかし、項羽が漢の侵略を黙って見逃すはずがなかった。 項羽は大挙して現れ、あっという間に漢軍を粉砕し劉邦軍を陽城に押込めた。 韓王信も篭城する羽目になってしまう。 それからが大変だった。 なんと、漢軍の篭城は一年にわたった。 劉邦のしぶとさもさることながら、項羽の意気込みにも凄いものがあった。 篭城して数ヶ月経つと、漢軍の兵糧が尽き始めた。人が人を食う、という凄まじい事態になっていた。 その間、彭越が項羽の補給路を断つ活躍などをしたが、 項羽によって彭越軍は瞬時に粉砕され、漢軍は虫の息だった。 劉邦「張良、陳平!!このままでは皆、飢え死にしてしまう。起死回生の策はないのか!!」 陳平「漢王さま。私に一計があります。この陽城から大王さまと兵を蒸発させることができる策です」 劉邦「なにぃ!!なんでそれを早く言わんのだ!! 我々がどんなに飢えているか知っておるだろう?だのにお前は・・・・・ブツブツ・・・・・」 陳平「まあまあ、漢王さま。何事も前向きに。逆境も明日の糧にしましょう」 劉邦「貴様〜〜。飯も食えずに戦が・・・・・・ブツブツ・・・・・・・」 陳平「まあまぁ。では策の内容をお話いたします。まず偽漢王を一人作ります。 偽漢王は兵に化けた婦人達を引き連れて降伏するために東門から出ます。 偽漢王軍が降伏するぞ〜と騒ぎながら行進すれば、楚兵どもは東門へ殺到するでしょう。 そのときに、手薄になった西門から本物の漢王さまと兵達が逃げるのです」 劉邦「うむむ・・・。成功するか?」 陳平「偽漢王には紀信、この城の守備隊長には周苛・韓王信が適任でしょう。 紀信・周苛は漢王さまのためなら喜んでこの役目につくでしょう。 韓王信の軍事能力をもってすれば数ヶ月の篭城には耐えられるでしょう」 劉邦「しっ、しかし、この三人は死んでしまうではないか」 陳平「・・・・・・・・・・・・・・」 劉邦「わかった。お前の策を採用する」 こうして(ホントカヨ)韓王信は、死は約束済みの役目にされた。 韓王信と周苛はよくやった。 が、項羽に勝てるわけもなく城は落ち、韓王信と周苛は捕虜になった。 周苛は「大大名にしてやるぞ」という誘いを断り、項羽を激しく罵り煮殺された。 韓王信は降伏した。しかし、項羽には将来性が無いことを知っていた韓王信は、 「いつか脱走してやる」と思っていた。 やがて項羽が落ち目になってきた頃、韓王信は漢軍に投降した。 劉邦も韓王信を陽で置き去りにした負い目もあったのか、彼を優遇した。 項羽は死に、劉邦の天下になった。 韓王信は、またも、韓王に立てられた。 しかし翌年、早くも辺境の代の地に移封された。左遷だ・・・ すでに劉邦にその軍事能力を恐れられていたのである。 「韓王信を韓に置いておけば、将来漢帝国を揺るがすほどの勢力を持ってしまうのではないか?」 と思われていたのであろう。 韓王信もなかなかの曲者だった。 彼は庶民に交じって成長し、辛苦を嘗めてきただけあって、 「忍ぶ」ことにかけては劉邦に負けていなかった。 彼はいそいそと任地の代に赴き、劉邦に上書した。 「代国は匈奴と国境を接しており、彼らの侵略にいつも悩まされております。 代の首都の晋陽は国境から遥か遠くにあり、いざという時迅速に匈奴対策が取れません。 よって国境近くの都市、馬邑に首都を移したいのですが。」 劉邦も匈奴の侵略を苦々しく思っていたので、すぐに韓王信の申し出を許可した。 しかし、韓王信の軍事能力を恐れていたのは劉邦だけではなかった。 匈奴の冒頓単于(ぼくとつ・ぜんう:単于は「匈奴の王」の意)も韓王信を恐れていた。 冒頓は、「韓王信が軍事を整えてしまう前に馬邑を奇襲して彼を虜にしよう」と考えていたのだ・・・ |