第四話:武渉の計


韓信はかい通の進言を用い、斉を騙し討ちし都に入った。

斉王田広や宰相田横は軍を率いて逃げた。

れき食其は煮殺された。当然の結果であった。

韓信は「友を売った」と言われても仕方がないと言えるだろう。


斉が韓信に奪われたと知った項羽は事の重大さを悟り、竜且を大将にし大規模な援軍をだした。

項羽の領地である西楚は、西は海を背にし、東に劉邦と戦い、

北に韓信の圧力を受ける形となってしまった。

竜且は斉王田広らと合流しい水を挟んで韓信と対陣したが、韓信の巧妙な計に嵌り

竜且は討たれ、田広は捕らえられた。


斉を実力で平定した韓信はかい通の勧めかどうかは判らないが、

仮の斉王に任命してくれるよう劉邦に使者を出した。

劉邦はけい陽で項羽に包囲され苦境に陥っていた為、韓信の節操無さに怒ったが

張良・陳平になだめられて韓信を本物の斉王に任命した。


一方、項羽は竜且を討ち取られたことに恐れをなし、弁士武渉を遣わせ韓信と誼を結ぼうとした。

武渉はかい通と同じ考えを持っていた。

彼は韓信の未来をはっきりと説いた。

武渉 「斉王は何故漢に背き楚に味方されないのか。

項王と斉王は旧交がおありではないですか。そのうえ漢王は信用ならぬ人物です。

かつて項王の掌中に命を握られたことがしばしばありましたが、

危機を脱すると漢王は約に叛き再び項王を討ちました。

漢王は親しみ難く、信用ならぬとはこのことです。

斉王は、漢王と堅い交わりをしているとお思いでしょうが、それは間違いです。

いずれは漢王の捕虜となりましょう。

はっきり申しますと、項王がおられたからこそ漢王は斉王を必要としているのです。

もし項王が滅亡すれば、次は斉王の番です。

なぜ項王と連携し、天下を三分して真の斉王になられないのですか。

まことの智者ならば、漢王を信じて項王を討とうとはしないはずです。」

韓信 「臣は数年間項王に仕えたが、官は郎中にすぎず位は執戟にすぎなかった。

建言は聴きいれられず、計略も採りあげられなかった。

漢王は臣に上将軍の印と数万の兵を授けてくださり、

自分の衣服を脱いで臣に与え、食事を進めて臣に食わせ、建言は採りあげられた。

故に今の私がいるのである。臣の身分はみな漢王のお蔭なのだ。

どうか私に代わって、項王にお断りしていただきたい。」


武渉は嘆息し、斉を去った。


武渉だけではない。かい通もこれには落胆した。

かい通は、天下を左右する「天秤の分銅」が韓信であることを知っていた。

漢に叛き楚とも連合せず「天下三分すべし」とかい通は考えていたのである。

かい通は、自分の動向次第で天下がどうにでもなることを知らない韓信に

まず自分の価値を悟らせようと考えた・・・


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