第一話:黥の刑



黥布(げいふ)という人は若い頃から気が荒く、誰も手をつけられないくらいだった。



ある人が、黥布の人相を占って、

「あなたは罪を犯し、刑罰をうけるであろう。

しかし、そのあと王になるだろう」

と言った。

その言葉通り、黥布は成年になってから秦の法律に触れ、(いれずみ)の刑に処せられた。

しかし、刑を受けたのに黥布は笑っていた。

「昔、占い師が俺に‘刑罰を受けるが王になる’と言った。

これで俺も王になれる。ははは!!」

これを聞いた黥布の仲間達は、彼をからかって気違い扱いした。



黥布は、始皇帝陵をつくる懲役を課せられた。

当時、始皇帝の墓を造るために数十万人の囚人達が動員されていた。

そこで働くうちに、黥布は囚人の組頭や顔役、ヤクザの親分などと親しくなり、

あっという間に顔役の一人にのし上がった。



彼はこのころから黥布と名乗り始めたのだろう。(彼の実名は、「英布(えいふ)」である。)

「黥の刑を受けた布」という名乗りは、聞く人に恐怖を与え、顔役としては申し分が無かった。



英布改め黥布はその経歴で囚人達を団結させ、その仲間と共に労働現場から逃走した。

しかし、首尾よく逃走には成功したものの、この集団を食わせることが出来ない。

そこで黥布一行は揚子江流域で盗賊稼業を始めたのだった。



そんな時、秦の暴政に耐えかねた人民達が遂に立ち上がったのである・・・



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