第一話:ならず者たちの挙兵
彭越、字は仲は、昌邑の人である。

昌邑は、漢の高祖劉邦の出身地である豊の北、約100Km弱のところにある。

彭越は若い頃から、鉅野の沼沢地帯で漁師をして生計を立てていた。

しかし、彼には、裏彭越とも言うべき職業があった。

実は、盗賊だったのである。

昼は漁師、夜は盗賊、といったところだろうか・・・・。

彼ははじめ盗賊仲間と一緒に追剥ぎなどをしていたが、

次第に配下を増やし、秦帝国末期には盗賊団の大親玉にのし上がった。

当時「俺は彭越さまの息のかかった者だぜぇ〜」と言えば、人々は震え上がったと言う。


そんなとき、世の中が騒がしくなってきた。

陳勝が秦に対して反乱を起し、成功を収めつつあったのである。

それに続いて項梁が挙兵し、江南の地をすべて占領した。


彭越の子分はその噂を聞いて、

「親分よぉ、秦はもう終わりじゃねぇか?

陳勝や項梁なんかは郡長官や県令を次々と殺して占領地を増やしてるらしいし、

ほかの豪傑どもも挙兵してるってウワサですぜ。

ここらへんで男といえば、我らが彭越様しかいねえ。

ここで一旗あげたらどうです?あっしらも、もちろん従いますぜ」

と提案した。

しかし彭越は、

「おいおい、あんまおだてんなよ。俺は老いぼれだぜ。

いいか、よ〜く考えてみろ。今は秦と陳勝が血みどろの戦いをしてる。

どっちが勝つかはわからねぇが、今挙兵すりゃぁ陳勝陣営に属さなきゃならねぇ。

俺達盗賊はどこにも属さねぇはずだ。

それに世の中が乱れれば、俺達盗賊は暮らしやすくなるんじゃね〜か?

盗賊稼業でボロ儲けだぜ!」

と、断った。


そして一年あまりが経った。

反秦運動は益々盛んになり、秦は押され気味になってきた。

今度は、100人あまりの若い子分達が集まって来て言った。

「親分、挙兵しましょうぜ。いましかねえ。俺達も一生懸命戦うからよ、親分がかしらになってくだせえ。

俺達の親分は彭越様しかいねえ。頼む!」

しかし彭越は断った。

「俺はお前らと行動を共にするつもりはねえ。お前らだけでも挙兵はできる。」

子分衆はがっかりしたが、さらに押した。

「今挙兵しなきゃいつするんですかぃ?親分だけが頼りだ。この通りだ、頼む!!」

と、皆口々に頼み込んだので、彭越は受けざるを得なかった。

「わかった。俺はお前らの頭として挙兵する。だがな、今のお前らでは秦軍には絶対勝てん。

まず、規律が無い。いいか、今から俺が彭越軍の規律を言う。

これを守らない奴は打ち首だ。いいな!!

明朝、日の出の時刻にココに集まれ。遅れた者は殺す!」

「おう!!」


しかし、予想通り遅刻した子分がたくさんいた。

なかには、正午過ぎに来た子分もいた。

彭越は怒った。

「俺は年寄りなのにお前らが無理矢理俺を頭にした。

それなのに俺との約束を守らず、遅刻する奴が多い。

しかし遅れた奴を全員殺すわけにもいかねえ。

一番遅く、正午過ぎに来た野郎をコロス!お前が死刑執行人になれ」

と、部隊長に任命しておいた子分に命じた。

しかし、彼は笑って、

「親分、そこまですることはないでしょうに。たかが遅刻ですぜ。」

と、言った。

彭越は黙って刀を抜き、正午過ぎに来た大遅刻男に近づいた。

大遅刻の男「おっ、親分。もう遅刻はしねえ。頼む、きらねえでくれ。うわぁぁああぁぁ」

彭越「・・・・・・・・・・・・・」


彭越は斬った男の首を軍神に捧げ、部下に命令した。

皆唖然とし、彭越を非常に恐れ命令は全て守られた。

こうして彭越軍は厳しい軍律を持った。


その後、彭越軍は近隣の地を攻略し1000人あまりの兵を得た。

しかし、生まれ故郷の昌邑は秦の官吏が固く守って落ちない。

そんな時、沛で挙兵したが一戦一敗しているというウワサの劉邦が昌邑を攻める、

という情報が彭越のもとに入った。


「これは昌邑を手に入れるチャンスだぜ。バカ劉邦ならこっちで丸め込んじまえばいい。

劉邦に味方するしかねえな。」

と思った彭越は、劉邦に味方することに決めた。


これが、劉邦と彭越との出会いとなる・・・


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