第一話:居巣廬江郡居巣県はいにしえの巣国であり、春秋の頃楚に併呑されたと思われるが良くわからない。 属国扱いだったのかどうか。 また夏王朝最後の帝・桀が、殷の武王(湯)に敗れ奔った処だともいわれる。 その居巣に范増という老人がいた。 戦国四君といわれた孟嘗君・平原君・信陵君・春申君より少し若い世代の人で、 六国が徐々に秦に呑み込まれてゆくのを生で見ていたであろう。 中でも祖国楚が秦に滅ぼされていく様をその目に焼き付けたに違いない。 彼の若い頃の逸話は一切語られていないので、何れも憶測にすぎないが。 『史記』で語られているのは、彼が「奇計」を好んだことと、 秦に対する反乱が起きても誰にも仕えなかったことだけである。 今回は伝も立てられなかった老軍師范増を追ってゆく。 |