第三話:劉邦の後宮へ


薄姫が奴隷となり機織り部屋にぶち込まれてから十ヶ月が過ぎようとしていた。

その間、魏豹は殺され、薄姫の母も病死した。

薄姫は身寄りも無くなってしまった・・・。


ある日、魏咎の後宮にいた女性が機織り部屋で奴隷になっている、という噂を聞きつけた劉邦が

ひょっこり機織り部屋にやってきた。

劉邦は、接した女性の数は数え切れないほどの女好きであったため、

薄姫を一目見て「奴隷の身分から解放しわしの後宮に入れよ。」と命じた。

薄姫は遂に苦難の日々に別れを告げ、晴れて自由の身となり劉邦の後宮に入った。


しかし、劉邦はすっかりこのことを忘れてしまい、その日の夜は違う女性を侍らせた。

その日だけではない。

劉邦はスッカリ薄姫のことを忘れ、一年以上放っておかれたのである。


一方、薄姫はそれなりに幸せな日々を送っていた。

漢王劉邦の後宮には、薄姫の幼馴染の管夫人趙子児がいたからである。

三人はよく昔話で盛り上がった。

趙子児 「そういえば私たち、誰かが先に出世してもお互い忘れずに仲良くしましょうね、

って約束しあったわね。」

薄姫 「そうそう、そんな約束したわねぇ。ふふ。

あなた達二人は先に漢王さまの後宮に入って美人(女官の位)になったけど、

約束通りまためぐり会えて仲良くなれてよかったわ。」


こうして薄姫は楽しい日々を過した。

奴隷の頃とは雲泥の差であったことは言うまでも無い。

しかし、劉邦は薄姫の部屋を訪れることはなかった。

忘れていたのである。



ある日、管夫人と趙子児が二人で薄姫と昔かわした約束について談笑していた。

趙子児 「薄姫っていまいちパッとしないわねぇ。

一度も漢王さまが来ていないというし・・・。」

管夫人 「そうねぇ。カワイイんだけど、顔が漢王さまの好みじゃないのよね。

それにしても、出世したのは私たちで、薄姫は全然駄目ね。

昔の約束は私たちのためにあったのかしら。」

趙子児 「そうねぇ。あははは。

でもあんまり言うと薄姫が可哀想よ。」


このとき、劉邦が偶然二人のそばを通りかかり、この話しを立ち聞きしていた。

劉邦は薄姫に興味を示し、二人に薄姫のことを詳しく聞いた。

劉邦は、薄姫の生い立ちや母に酷い仕打をされたことや奴隷になったことを聞き、

心中痛ましく感じ薄姫を可哀想に思った。

そこで劉邦は、その日の夜は薄姫を召し出して寝所に侍らそうと思った。


こうして、遂に薄姫は劉邦の寵愛を受けることとなったが・・・


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