第十三話:臣愚計無出此


ちょう錯が退出したあと、袁おうは景帝に策略を告げた。

おう 「呉・楚の王らは、『高祖さまは一族に領地を授けてくださったのに、

逆臣のちょう錯は勝手に諸侯に罪有りと決めつけ領地を削りとっている。』と申しております。

ですので表立っては謀反でありますが、もしちょう錯を処刑し呉楚に元の領地を与えてやれば

反乱は目的を失い終わりになりましょう。

現在の最善の策は、ちょう錯一人を斬り捨て、呉楚の罪をお赦しになり、

元の領地を返してやることです。それだけで刃に血を塗ることもなく戦は終りましょう。」

景帝 「・・・・・・。

うーむ。わしは一人の人間を惜しむつもりはないが・・・。

ちょう錯を斬れば天下へ詫びたことになるのかの。」

おう 「臣のつまらぬ計略はこれ以外にありません。どうかご熟慮を。」


やがて景帝は袁おうを太常(宗廟・典礼を管理する)に任命し、

呉王ひの甥の徳侯劉通を宗正(皇族を司る)とし、

おうを連れてきた竇嬰を大将軍に任命した。

長安周辺の豪族や大臣官僚らは争って彼らに近づこうとし、彼らの家へ続く馬車の数は

毎日数百台を数えるほどであったという。


景帝は中尉(都の警察長官)を遣ってちょう錯を呼び出させ、長安東の市場を視察させた。

ちょう錯は官服を着て車に乗ったが、市場まで来ると車から降ろされ斬り殺された。


おうは、天子がちょう錯を斬って呉楚に詫び領地を元に戻すことを伝えるために

宗正の劉通とともに呉へ向った。(この時、呉軍はすでに梁を攻撃していた。)

劉通は親族として呉の陣中に入れたが、呉王は袁おうとの面会は断った。

そして「わしは既に東の皇帝となった。それなのに一体誰を拝するのだ。」と言い放って

おうを軍中に拘留し、脅迫して呉軍の大将にしようとした。

おうはこれを承知しなかった為、彼の幕舎は五百人の兵に取り囲まれてしまった。


たまたまその五百人の中に、袁おうが呉の丞相だった頃恩を与えた兵士がいた。

その男は袁おうの侍女と密通していたが、袁おうは黙認しさらに彼が逃亡しようとすると

その侍女を与えるとまで約束して引きとめた男だった。

彼は恩人袁おうを救うべく、家財を売り払い上等な酒を買い込み同僚を泥酔させ、

皆が寝込んだ隙にひそかに袁おうを起こした。

兵士 「さあ。お逃げなさい。呉王は明日あなたを殺しますぞ。」

おう 「・・・・・・。

あなたはどなたですかな。」

兵士 「わたくしは、昔あなたさまの配下だった者です。

あなたさまの侍女を盗んだ男です。」

おう 「なんと!あの時の・・・

だが、あなたにはご両親がおられるではないか。

わしはあなたに迷惑をかけるほどの男ではない。」

兵士 「あなたさまが逃げてくれれば、それでよいのです。

両親はもう隠してありますし、ご心配には及びません。」


そう言うと男は刀で幕舎を切り裂き、袁おうを案内して逃亡させた。男は別れ去った。

おうは朝廷に戻り、事態を報告した。


その後、周亜夫(周勃の子)・れき奇(れき商の子)・欒布・竇嬰・韓頽当らが反乱軍を破り、

呉楚七国の乱は終結した。王らは皆自殺したが、呉王ひの子の子駆と子華はびん越へ逃亡した。



ちょう錯はその政策の急激さで呉楚七国の乱を招いたとされ、責任をとらされて処刑された。

それは袁おうの進言に基くものだったが、彼の死は無様だった。

天子に騙され衆人環視のなか斬られた。

管理人は袁おう好きだが、この進言をしたときの袁おうだけは好きになれない。

彼の目的は呉楚の反乱を止めることではなく、「ちょう錯を殺すこと」だったからだ。


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