第十二話:願屏左右


おうが参内したとき、ちょうど景帝とちょう錯が反乱軍呉楚の兵力配置と

食糧調達について話していたところであった。

景帝は袁おうがかつて楚の丞相だったことを思い出し、聞いた。


景帝 「君は以前、呉国の丞相であったが、呉の田禄伯がどんな男か知っているか。

また、呉楚の反乱について君の考えを聞きたい。」

おう 「だいじょうぶです。じきに撃破されるでしょう。」

景帝 「しかし、呉王ひは銅山を抱え貨幣を鋳造し、海水から塩を作り、

天下の豪傑を誘い入れ、白髪頭になってから反乱をおこした。

彼らの資金は豊富で計画は万全ではないのか。」

おう 「確かに呉には銅・塩の財があって有利でしょう。

しかし豪傑を誘い込むのには失敗しています。

呉が誘い入れたのは、すべてちんぴら・逃亡者・貨幣偽造の輩です。

豪傑を誘い入れていたならば、呉王を補佐して乱など起こるはずがありません。」


ここでちょう錯が口を挟んだ。

ちょう 「袁おうの判断はもっともです。」

おう 「・・・・・・・・・。」

景帝 「では、どんな策をとればよいのだろうか。」

おう 「どうかお人払いを・・・。」

景帝の側に控えていた者はみな退出したが、ちょう錯だけは残っていた。

おう 「臣の申しますことは、たとえ大臣でもお聞かせすることができません。」

景帝 「そうか。ではちょう錯も退出してくれ。」


ちょう錯は退出させられたが、心は袁おうへの憎しみで満ちていた。

が、この「退出させる→景帝と二人っきり」戦法はちょう錯が普段から使っていたものだった。

ちょう錯が袁おうへ憎しみを感じたように、ちょう錯は他の者からも憎まれていたのだ。

ちょう錯は他人への優しさに欠けていた。そして、気付くのが遅すぎた。



この数週間前、ちょう錯の父が息子に会いに都へやってきた。

「天子は即位なさったばかりで、おまえが政治を執り仕切っておる。

諸侯を脅かし領地を削り親子兄弟を離れ離れにさせて、おまえさんの評判は悪く

怨む者が多いそうだが、一体どういうつもりなのだ。」

ちょう 「当然のことをしているだけです。

こうしなければ天子さまの尊厳はそこなわれ、劉家は安泰になりません。」

「なるほどのぅ。

確かに劉家は安泰だろうな。だが、わがちょう家は危ういな。

わしはもうお前とはお別れじゃ。郷里へひっこむぞ。」

ちょう錯の父は郷里へ帰ると毒薬を飲んで自殺した。

死に際に、「災いがわしらちょう家に降りかかるだろうが、それには堪えられぬ。」と言ったという・・・


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