第十話:丞相を諫める


呉王に信任された袁おうは、あるとき休暇をもらって都へ戻った。

途中、当時丞相であった申と(しんと・か。楚漢の戦いを経験した、生き残りの一人)の一行と出あった。

おうは馬車から降りて丁寧に挨拶したが、申と嘉は馬車から降りずに挨拶を返しただけだった。

おうは恥をかかされたので申と嘉の宿舎へ行き、会見を申し入れた。

が、申と嘉は長い間彼を待たせた。明らかに大物ぶっている。

やっと申と嘉が出てくると袁おうは恭しく膝をついて言った。

おう 「どうかお人払いを。」

と 「あなたの話が公の話であれば、役所で長史や掾に相談すればよいことです。

私はそのあとで上がってきた報告をうけて天子さまに上奏いたしましょう。

私事ならば、私はお聞きしないことにしておりますが。」

おう 「あなたは丞相に任じられましたが、ご自分が前任の陳平さまや周勃さまにも

ひけをとらないとお考えですか?」

と 「・・・・私は遠く及ばないが。」

おう 「陳平さまと周勃さまは高祖さまを補佐して天下を平定し、

将軍・丞相として呂氏を滅ぼして劉家を救われました。

あなたさまは高祖さまが項羽と争っていた頃、石弓の射手でした。

のちに小隊長へ登り、年功を積んで淮陽郡守に出世されましたが、

特別な奇策を立て一国を攻め落としたとか、激戦で軍功第一だった訳ではありますまい。

陛下(文帝)はご即位なさって以来、天下の賢士を招聘しております。

陛下はそれまでお聞きでなかったこともお聞きになり、

ご存知なかったことをご理解なさり、日々ご英邁になられます。

もし英邁な君主が無知なる丞相を追及なさるようなことがあればどうします。

あまたさまに災いが降りかかるのも遠いことではありますまい。」

おうの批判は痛烈であったが、申と嘉はハッと気づき二度お辞儀して感謝した。


と 「この申と嘉、田舎者で有頂天になっておりました。

将軍、これからも何もわからぬ私に教示してくだされ。」


こうして丞相申と嘉は袁おうを奥へ案内して対座し、上客としてもてなした。


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