第八話:諫言【上級】


文帝が上林苑(渭水の南。庭園)へ遊びに行ったときのこと。

大臣らのほかに、正室であった竇姫と側室の慎夫人がお供をした。


この慎夫人、文帝に寵愛されており宮中では皇后である竇姫と対等に席を並べて座っていた。

また文帝が外出する際には、慎婦人が決まってお供をした。

群臣のなかにはこれを危険に思っている者もいた。前代の呂后が記憶に新しいからである。

当時中郎将であった張釈之もその一人で、文帝を諌めている。

話を元に戻そう(^-^;;


一同は上林苑の離宮に入り休むこととなった。

役人は竇皇后と慎夫人の席を並べて置いた。袁おうは進み出て慎夫人の席を一段後ろへ下げた。

おうの所作を見た一同は唖然とし、慎夫人は怒って席につこうとしない。

文帝も怒り、立ち上がって慎夫人と宮中へ帰ってしまった。

一同はおろおろするばかり。(^-^;;


おうは宮中へ戻ると文帝の前へ進み出て説いた。

おう 「臣は『尊卑の秩序あってこそ上下和合する』と聞いております。

陛下はすでに皇后さまをお立てになりました。つまり慎夫人さまは側室であります。

皇后と側室が席を並べて座ってよいものでしょうか。これは尊卑の秩序を

すでに乱しております。

陛下が慎夫人を寵愛なさるならば、多くの下賜品をお与えになればよいのです。

陛下は、『慎夫人の為に・・・』とお考えでしょうが、

逆に慎夫人の身に災いを招く原因にもなりましょう。

陛下は、あの『人てい』事件をご存知ないのですか?」

(高祖劉邦の側室であった戚夫人は劉邦の愛を独り占めし、呂后と権勢を争い嫉妬をかった。

劉邦の死後、戚姫は呂后に捕われ、目をくりぬかれ、耳を聞こえなくされ、喉を焼かれて言語を奪われた。

あげくのはてには両腕両足を切断されて便所に捨てられた。その死体は『人てい』と名づけられた。

戚姫の息子は毒殺され、恵帝は『人てい』を見たショックで立ち直れなくなった。

呂后の専制はこのことから始まった。)


文帝 「・・・そうだな。お前の言う通りだ。

よく言ってくれた。」

こうして文帝は袁おうの諫言を素直に聞き入れ、慎夫人を呼んでこのことを話して聞かせた。

慎夫人も馬鹿ではない。もちろん彼女もあの人てい事件を知っていた。

すぐさま袁おうのもとへ行き、以前の態度を謝罪すると共に、感謝のしるしとして金五十斤を贈った。



こうして極諫直諫の士として文帝にも受け入れられ、竇姫・慎夫人にも気に入られた袁おうだったが・・・


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