第六話:二人の独立
武臣は張耳と陳余に絶対的信任を置いていたので、

二人の献策「陳王から独立して趙王になれ」という意見を聞き入れ、趙王の位に就いた。

そして、陳渉の元に使者を出し、「属国の王」である体裁を整えようとした。


使者の口上を聞いた陳渉は激怒した。

「お前は俺の親友だから将軍にしてやったのだ!俺との友情に背き独立しようというのか?

もー許せん。奴の家族は皆殺しだ!」


しかし、相国(しょうこく:総理)の蔡賜(さいし)が諌めて、

「陳王よ。まだ秦は滅びていませんぞ。ここで武臣の家族を殺戮すれば、

彼はきっと我々を敵とみなすでしょう。

秦と趙を敵にまわしては我が国に勝ち目はありません。

むしろ彼らの独立を認め祝賀を述べられ、秦討伐の命を下す方がよいでしょう」

と、言った。

陳渉は、「うむむ・・・、腹立たしいが、それしかあるまい」

としぶしぶ納得し、陳渉のもとにいた張耳の息子張敖(ちょうごう)に成都君の位を与え、

武臣の家族を宮中に拘束し秦へ攻め込むことを催促した。


陳渉のもとから帰ってきた使者は、陳王の表情・仕草などをつぶさに武臣に伝えた。

傍らで聞いていた張耳と陳余は、「こいつぁ、趙王との友好関係は偽装だな」とすぐに見破り、

「あなたが趙王になったことを、陳王は快く思っていませんな。

そして秦へ攻め込め、というのは策略ですな。

どうせ秦を滅ぼした後、陳王はこの国へ攻め込んでくる腹でしょう。

秦へ兵を向けてはなりませんぞ。

では、どうすればいいか・・・・。

今から北方の地「代」「燕」を攻めとり南方の地「河内」を攻めとれば、

黄河の自然要塞と土地が一気に手に入ります。

これならば、たとえ陳王が攻めて来ても趙国は負けません。」

と進言した。


二人の策を受け、武臣改め趙王は韓広(かんこう)に燕を攻めさせ、李良(りりょう)に常山を攻めさせ、

張黶(ちょうえん:張耳の親族)に上党を攻めさせた。


しかし、韓広は燕の地に着くと、独立して燕王になってしまった。

李良は常山を落とすと太原(たいげん)という都市を攻めようとしたが、

秦の大軍と遭遇し苦戦を強いられた。しかも、秦軍は謀略工作も行った。

「李良よ。お前は昔、私(秦の皇帝のこと)に仕え高官であった。今、再び心を秦に戻し趙に背くなら

今までの罪は全て赦し高い官位を与えようぞ」

という手紙を李良に送りつけた。

果たして、李良は引っかかった。

彼は疑心暗鬼になってしまった。武臣に背くか背くまいか迷い出した。

「まあ、目の前の秦軍を追っ払ってから考えよう」と彼は思い、(ほんとかよ^^;)

増援の要求をしに武臣のもとへ向かった。



その途中、彼は武臣の姉の行列に出会った。

李良は、てっきり武臣の行列だと思っていたので、道端に平伏して挨拶した。

武臣の姉は酔っ払っており李良だと気づかなかったので、自分の護衛兵に言いつけて挨拶させた。

行列が通り過ぎたあとすぐに、李良は真相を知り激怒した。

「あの無礼ババアめ。俺は昔、秦でも認められた。今、趙でも認められて将軍をやっている。

それなのに、あのババアは礼を無視しやがった。殺っちまえ!」

もともと、造反をもくろんでいた李良である。あっという間に武臣の姉を殺し、

その勢いで武臣のいる邯鄲(かんたん:趙の首都)に攻め込んだ。

まさか反乱を起されるとは思ってもいなかった武臣は、あっという間に殺された。


この時張耳と陳余は邯鄲にいたが、日頃から世話をしてやってる人々に助けられ邯鄲を抜け出し、

散り散りになった武臣の兵をかき集め、数万人の軍勢を手に入れた。


そこで、張耳の食客が、ある献策をしてきた。

「張耳さんと陳余さんは趙の生まれではありません。

だから趙の人々はあなた方の信義や威厳を知らないでしょう。

あなた方が趙王になっても、どうせ他人扱いされるでしょう。

要するに、あなたがたは趙の人々の忠誠を当てにすることはできないということになります。

だから昔の趙王の子孫を趙王に立て、あなた方は影から支配した方が賢明だということになります」

張耳はこれを聞いて早速、趙の王族の子孫を探し始めた。


張耳と陳余は趙歇(ちょうけつ)という王族の子孫を探し出し、無理やり王の位に就けた。


ここに、二人の独立が始まるのだが・・・

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