ついに陽城の兵糧が尽き、落城は必至となった。劉邦はまたもや陳平を呼び出した。 |
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劉邦 | 「おい。もう兵糧が尽きてしまったぞ。お前の策は時間がかかり過ぎたようだ。 今すぐにこの城を脱出し、函谷関の中に入り募兵して再起したいのだが、 どうすればよいだろうか。何かよい策はないか?」 |
陳平 | 「この城を抜け出すには、一人死士が必要となります。 その死士を漢王そっくりに仕立て、降伏すると偽り東門を出てゆっくり楚兵の中を進ませます。 そうしているうちに、全ての楚兵が東門のニセ漢王の周りに集まるでしょう。 楚兵は万歳を叫び、「平和が訪れる!」と安堵するでしょう。 その隙にホンモノの漢王は反対の西門から逃げれば、楚兵もおらず簡単に逃げれましょう。」 |
劉邦 | 「うむむ。その死士は誰がよいだろうか。」 |
陳平 | 「紀信がいいかと思われます。『鴻門の会』でも紀信は漢王を守り、死ぬ気でした。 彼ならば怖気づくことなく大役をやり遂げるでしょう。」 |
劉邦 | 「そうか。紀信か・・・。」 |
陳平 | 「漢王と兵達が逃げた陽城は、周苛・魏豹・樅公・韓王信に任せるとよいでしょう。 この四人も死ぬことになるでしょう。」 |
劉邦 | 「魏豹?あんな腰の定まらぬ裏切りヤロウは駄目だ。きっと内応するだろう。」 |
陳平 | 「いや、大丈夫です。周苛・樅公が始末するでしょう。彼は漢軍に必要ではありませぬ。 始末できるときにしてしまったほうがよいでしょう。」 |
劉邦 | 「・・・お前の言うとおりだ。ヤツは生かしておいても、また裏切るだろう。 ・・・決まった。お前の策を採用する。 すぐに実行に移してもらうが、何か必要な物はあるか?」 |
陳平 | 「武装した200人の婦人を用意してください。 婦人兵は紀信が東門を出る前に城の外に出てもらい、楚兵を集める役目をしてもらいます。 そのあとすぐに紀信が城外に出れば、全ての楚兵が東門にあつまるでしょう。」 |
劉邦 | 「わかった・・・」 |
その夜、200人の武装婦人兵が東門から出た。 楚兵は、「漢軍の夜襲か?」と勘違いし婦人兵を攻撃した。 しかし、しばらくすると婦人だと判り攻撃をやめ、興味をもった楚兵達が東門に集まり始めた。 そのとき、漢王に成りすました紀信が劉邦の馬車に乗って東門をうって出た。 ニセ劉邦の一団は、「城内の糧が尽きたため、漢王が降伏する。」と楚兵に向かって叫んだ。 楚兵は事態がわかるとみな万歳を叫び、すべての楚兵が東門に集まり始めた。 陳平の策が成功した頃、西門に待機していた劉邦は数十騎と共に密かに逃げ出した・・・ 紀信は項羽の前にひき出された。 |
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項羽 | 「ぬうう!お前は誰だ?」 |
紀信 | 「はははは!騙されたか!わしは漢王の将軍紀信だ。漢王はもう城を出られたぞ!」 |
項羽 | 「ぐうううう。ゆ、ゆるせん!!こいつを焼き殺して見せしめにしろ!!!」 |
紀信 | 「ははは。馬鹿め!わしを殺してももうどうにもなるまい。 サッサと漢王に降伏して、王位を保ったほうがいいだろう。 ケチなお前と違って、漢王は気前がいいからな。はははは!」 |
こうして紀信は焼き殺された。 劉邦は函谷関を越え、蕭何の守る三秦の地に入り大いに兵を募り勢力を挽回した。 こうして劉邦は陳平の鬼謀により死地を脱したのであった。 しかし、紀信・婦人兵の命は露と消えた。そして、この後さらに周苛・樅公が死ぬ。 仕方が無かったとはいえ、陳平にとっては後味の悪い策となってしまったことだろう・・・ |