第七話:大脱出



ついに陽城の兵糧が尽き、落城は必至となった。劉邦はまたもや陳平を呼び出した。

劉邦 「おい。もう兵糧が尽きてしまったぞ。お前の策は時間がかかり過ぎたようだ。

今すぐにこの城を脱出し、函谷関の中に入り募兵して再起したいのだが、

どうすればよいだろうか。何かよい策はないか?」

陳平 「この城を抜け出すには、一人死士が必要となります。

その死士を漢王そっくりに仕立て、降伏すると偽り東門を出てゆっくり楚兵の中を進ませます。

そうしているうちに、全ての楚兵が東門のニセ漢王の周りに集まるでしょう。

楚兵は万歳を叫び、「平和が訪れる!」と安堵するでしょう。

その隙にホンモノの漢王は反対の西門から逃げれば、楚兵もおらず簡単に逃げれましょう。」

劉邦 「うむむ。その死士は誰がよいだろうか。」

陳平 紀信がいいかと思われます。『鴻門の会』でも紀信は漢王を守り、死ぬ気でした。

彼ならば怖気づくことなく大役をやり遂げるでしょう。」

劉邦 「そうか。紀信か・・・。」

陳平 「漢王と兵達が逃げた陽城は、周苛魏豹樅公韓王信に任せるとよいでしょう。

この四人も死ぬことになるでしょう。」

劉邦 「魏豹?あんな腰の定まらぬ裏切りヤロウは駄目だ。きっと内応するだろう。」

陳平 「いや、大丈夫です。周苛・樅公が始末するでしょう。彼は漢軍に必要ではありませぬ。

始末できるときにしてしまったほうがよいでしょう。」

劉邦 「・・・お前の言うとおりだ。ヤツは生かしておいても、また裏切るだろう。

・・・決まった。お前の策を採用する。

すぐに実行に移してもらうが、何か必要な物はあるか?」

陳平 「武装した200人の婦人を用意してください。

婦人兵は紀信が東門を出る前に城の外に出てもらい、楚兵を集める役目をしてもらいます。

そのあとすぐに紀信が城外に出れば、全ての楚兵が東門にあつまるでしょう。」

劉邦 「わかった・・・」

その夜、200人の武装婦人兵が東門から出た。

楚兵は、「漢軍の夜襲か?」と勘違いし婦人兵を攻撃した。

しかし、しばらくすると婦人だと判り攻撃をやめ、興味をもった楚兵達が東門に集まり始めた。

そのとき、漢王に成りすました紀信が劉邦の馬車に乗って東門をうって出た。

ニセ劉邦の一団は、「城内の糧が尽きたため、漢王が降伏する。」と楚兵に向かって叫んだ。

楚兵は事態がわかるとみな万歳を叫び、すべての楚兵が東門に集まり始めた。


陳平の策が成功した頃、西門に待機していた劉邦は数十騎と共に密かに逃げ出した・・・



紀信は項羽の前にひき出された。

項羽 「ぬうう!お前は誰だ?」

紀信 「はははは!騙されたか!わしは漢王の将軍紀信だ。漢王はもう城を出られたぞ!」

項羽 「ぐうううう。ゆ、ゆるせん!!こいつを焼き殺して見せしめにしろ!!!」

紀信 「ははは。馬鹿め!わしを殺してももうどうにもなるまい。

サッサと漢王に降伏して、王位を保ったほうがいいだろう。

ケチなお前と違って、漢王は気前がいいからな。はははは!」

こうして紀信は焼き殺された。


劉邦は函谷関を越え、蕭何の守る三秦の地に入り大いに兵を募り勢力を挽回した。



こうして劉邦は陳平の鬼謀により死地を脱したのであった。

しかし、紀信・婦人兵の命は露と消えた。そして、この後さらに周苛・樅公が死ぬ。

仕方が無かったとはいえ、陳平にとっては後味の悪い策となってしまったことだろう・・・


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