第四話:大虐殺



黥布の活躍によって、項羽は秦正規軍20万を投降させた。

しかし項羽軍の兵士達は、秦の投降兵を奴隷のように扱い、侮辱し、無法状態であった。

それほどまでに秦は憎まれていた。が、秦の兵士に罪は無い。

当然、秦の兵士達は憤懣やるかたなく、項羽軍から逃げ出そうとした。

しかし、この不穏な動きはすぐに項羽軍首脳にバレてしまった。



実は項羽軍は、このとき兵糧が乏しかった。

章邯の投降を受け入れた理由も、「兵糧の不足」が表向きの理由だった。

ただでさえ兵糧不足なのに、秦投降兵20万人分の兵糧などある訳が無い。



項羽は決断した。

章邯ら将軍3人以外を殺そうと決断したのだ。

しかし、一気に20万人を殺すのは、大変な作業である。



黥布「お呼びですか?」

項羽「うむ。お前に頼みたいことがあってな・・・

実は、秦の投降兵達が反乱を起こそうと企んでおる」

黥布「ほ、本当ですか?奴らは武器を取り上げられているとはいえ、20万人。

反乱を起こされたらひとたまりもありません」

項羽「そこでだ、・・・殺してしまおうと思っているのだ」

黥布「ど、ど、どうやって?」

項羽「明日、秦兵は崖の近くに宿営させる。そして深夜に三方から密かに囲み、喚声をあげながら包囲を縮め谷底へ追い落とす」

黥布「な、なるほど。で、私に相談したのは・・・」

項羽「お前に殺ってもらおうと思っている」

黥布「!!!」



こうして黥布は大量殺人の執行人を押し付けられたのである。

断われる訳も無く、黥布は殺人依頼を受けた。

深夜、兵が寝静まった頃、黥布は三方から秦兵を囲んだ。

黥布の合図で、夜襲兵は一斉に喚声をあげ斬り込んだ。

秦兵は大混乱に陥り、暗闇の中を逃げ惑った。

皆、谷のほうへ逃げ、崖から転落した。

死体の上に死体が重なり、運良く生きていた者も上から落ちてくる者で圧死した。

こうして、20万人の大量殺人が完成した・・・。

黥布はこの自ら行った惨劇を見て何を思ったのだろうか・・・



翌日、項羽軍全軍で秦兵の死体を埋めた。

『史記』の著者司馬遷は中国を広く旅したが、新安(しんあん)にもいったであろう。

そこで、当時の惨景を見た老人などから生々しい話を聞いたのであろう。

項羽20万大虐殺の場面は、司馬遷の描写が妙に生々しい・・・。


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