劉邦は酒宴が好きであったようで、病中でもこれを行った。 あるとき、太子劉盈は酒宴に四人の隠者を連れていった。 劉邦は息子の傍にお供をしている四人の老人を不思議に思った。 彼らは見た感じでは歳は八十を過ぎており、鬚も眉毛も真っ白であり、 容姿や立振舞は非常に立派で威厳があった。 宴もたけなわになってきた頃、劉邦は訝しんで質問した。 「四老人は何者かな?」 四老人は進み出てそれぞれ姓名を述べた。 「東園公です。」「里先生です。」「綺里季と申します。」「夏黄公です。」 劉邦は非常に驚いた。 |
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劉邦 | 「おおお! ワシは公らを長年求めてきたが、公らは逃げ隠れた。 それなのに、どうして自らすすんで我が子と交際しているのか。」 |
四老人 | 「陛下は士を軽んじ、口汚く罵られます。 わたくしどもは、自分の節義を保つためにも、そのような侮辱は受けられませぬ。 しかし、太子さまの噂を聞くと、人々はみなほめ称え、 太子さまに期待し、命を投げ出そうと望む者ばかりだといいます。 そして仁愛と孝行の徳をお持ちで、慎み敬意をもって士を愛されているとのこと。 わたしたちは、太子さまなら、と思いここへ出てきたのです。」 |
劉邦 | 「・・・・・・・・・・・・そうか。 ・・・公らには面倒をかけるが、どうか最後まで太子を助け、守り立ててやってくれ。」 |
四老人は杯をあげて劉邦の長寿を祈り、退出した。 劉邦は目でそれを見送り、戚姫を宴席に呼び入れ、四人の老人を指差して言った。 |
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劉邦 | 「わしは太子を替えるつもりであったが、あの四賢者が盈を補佐している。 羽翼は出来上がっておって、すでに動かすことはできぬ。 呂后が真実おまえの主人だ・・・。」 |
戚姫 | 「そん・・・な。うっ・・・ううう。」 |
劉邦 | 「戚よ、泣くでない。さあ、ワシの為に楚の舞を舞ってくれ。 ・・・泣くでない。ワシがお前の為に楚の歌を歌ってやろう。」 |
大意 「おおとりは高く飛び、一飛びすると千里も行く。 太子の翼はすでに完成し、四海を飛び越える。 四海を飛び越えてしまえば、もうどうすることもできぬ。 鳥を撃つ矢があっても、どこに用いるのか。」 |
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これを聴いて、戚姫は劉邦の傍らでただただすすり泣くばかり。 劉邦は起ち上がって退出し、宴はお開きとなった。 こうして、張良の計略が当り、太子劉盈はその座を奪われることはなかった。 すべては、四人の老賢者を招かせた張良のお蔭であった。 これ以後、呂后は深く張良を信頼し、病気見舞いにも訪れた。 一方、この時点で戚姫の運命は決まったとも言えよう・・・ |