第三話:王侯將相寧有種乎


行くも帰るも死となった陳勝は、呉広と相談した。

陳勝 「逃亡しても死罪になる。漁陽へ行っても殺される。蜂起しても死ぬだろう。

ならば蜂起して国を立てて死んだ方がよいではないか。」

呉広 「言うことはよく分かる。どうしようというのだ?」

陳勝 「天下は長い間暴秦に苦しめられてきた。

聞いた話だが、二世(胡亥)は皇帝になるべき人間ではなく、

実は死んだ扶蘇が皇帝になるはずだったのだ。

扶蘇は度々始皇を諌めたので辺境へ送られ、二世に殺されたとのこと。

世間の者は扶蘇の賢明さは知っているが、その死はまだ知らない。

また、楚の将軍項燕は士卒を大事にし、いまでも楚人は将軍を慕っている。

秦に殺されたが、実は逃亡して雌伏していると言う人も多い。

今、我々が扶蘇・項燕だと名乗り、兵をあげて天下の魁となれば

応ずる者が多いはずだ。」

呉広 「・・・なるほど・・・やるか。

では先に吉凶を占ってもらおうではないか。」


占師は彼らの企みに気がつき、言った。

「占った結果、あなた方の事は全て成功するでしょう。

しかしながら、この企みを鬼神に託さなければならないでしょう。」

陳勝・呉広はこれを聞いて喜び、鬼神の意味についてあれこれ考えを巡らし、

人々を畏れさせればよいのではないかと思い至った。

そこで、絹布に赤字で「陳勝王(陳勝が王になるぞ)」と書き、網にかかった魚の腹に入れておいた。

兵卒が魚を買って食べたところ絹布が出てきて気味が悪くなり、噂が広まった。

また、呉広を宿営地のそばの森の中の祠に潜入させておき、

夜になってから狐の声を真似て「大楚興、陳勝王。(大楚が興り、陳勝が王になるぞ)」と叫ばせた。

兵卒たちは驚き恐れ、翌朝になると誰もが陳勝を指さして見た。



呉広は面倒見が良く、慕われていた。

漁陽への引率の役人が二人いたが、

ちょうど酒に酔ったときに呉広はわざと目の前で逃げたいと何度も言った。

役人は怒り、呉広を鞭打った。兵卒らは皆憤った。

その時、役人の剣が抜け落ちた。

呉広はすかさず剣を奪い、役人を斬り殺した。

陳勝が加勢し、もう一人の役人も斬り殺した。

陳勝は一行九百人を集め、演説した。
「我々は皆、雨に遭い到着期日に間に合わなくなった。

期日までに到着できなければ、全員死刑だ。

たとえ殺されなくても、十人のうち六・七人は辺境守備で死ぬ。

壮士たるもの、死ぬならば大きく名をあげて死のうではないか。

王侯将相に血筋などいらぬ!」

(故事成語の「王侯將相寧有種乎」はここが出典である)
一同は奮い立ち、右肩を肌脱ぎし「大楚!」と名乗りをあげた。

祭壇を作り、誓いを立て、役人の首二つを生贄として捧げた。

陳勝は将軍を名乗り、呉広は都尉を名乗った。


陳勝らは大沢郷を攻めこれを抜き、武器と兵を奪った。

さらに近くのきを攻め、抜いた。

陳勝は緒戦から勢いに乗った。


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