人〜干宝『捜神記』より〜 |
長江と漢水の流域には、人という民族がいる。 彼らは異民族の酋長の子孫であり、虎に化けることができる。 あるとき、長沙に住む東高という異民族の民が檻をつくって虎を捕獲しようとした。 しばらくして大勢で虎を捕えに檻に行ってみると、 そこには赤い頭巾の上から冠を被った一人の亭長(官営宿場長)が坐っている。 びっくりして異民族の者が、「あんたはなんでこの中に入ったんだ?」と尋ねると、 この謎の亭長は怒って、「昨日県から呼び出されて出かけたが、 夜道で雨に遭い雨宿りしようと間違えて入ってしまったのだ。」と言う。 異民族の者は怪しみ、「県から呼び出されたのなら、公文書かなにか持っているはずだが。」 と言うと、この怪しい亭長は即座に懐から文書を取り出して見せた。 異民族の者はこの亭長を檻から出してやったが、亭長は去っていくうちに虎に姿を変え 山へ逃げ込んでしまった。 ある人がこの話を聞いてこう言った。 「人は虎が人に変わったものであり、彼らは蝦茶色の着物を着て、足にはかかとが無い。 また虎なのに五本の指がある虎は、すべて人が化けたものである。」 |