『史記』の星空 |
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『史記』には天官書というものがありあます。 『史記』の書かれた時代の星の運行や、雲気について詳細に書き記してあります。 現在、『史記』天官書の研究は進んでいて、天官書にある恒星名を今日の恒星名と同定させた 清水嘉一「史記天官書恒星考」(東方学報京都,第十四册,昭和19年)などもあります。 では早速当時の恒星名、いってみましょ♪ |
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帝星 |
当時の北極星。現在は、こぐま座β星と呼ばれる。 ちなみに、現在の北極星はこぐま座α星である。 不動に見える恒星もちょっとずつ動いてる。 |
七星 |
今も北斗七星と呼ばれる。が、現在の形と若干違ったはずである。 第一星〜第七星まですべて名前がついており、 第一星は天枢、第二星は旋、第三星は、第四星は権、第五星は玉衡、 第六星は開陽、第七星は揺光と呼ばれた。 ちなみに、第七星が柄の端っこの部分である。 |
天王 |
別名、大火という。天子が政治を行う堂にあたると考えられた。 現在のさそり座α星。アンタレスのことである。 二千数百年前から赤色をしていたらしい。この方向に銀河系の中心がある。 |
角 |
現在のおとめ座のこと。 おとめ座で一番明るいスピカは、日本では5月によく見え、 南天に一つポツンと光る為、真珠星と呼ばれている。 実はスピカは連星で、高温の星二つがぴったりとくっつきあって、 わずか4日という周期でぐるぐる回っている。 |
大角 |
天王の宮廷を指すと考えられた。 現在のおうし座α星にあたる。アルクトゥルスである。 日本だと、夏にさそり座の横に見える。 |
軫 |
車の形をしている。風を支配していると考えられた。 現在でも、いびつな四角形をしており、からす座と呼ばれる。 その四角の中に、長沙星がある。 これは、(恐らく)現在NGC4361といい、10.8等級で肉眼で見ることはできない。 惑星状星雲といい、寿命を迎えた星が爆発したとき噴出したガスが作り出している。 地球から4300光年離れている。 |
昴 |
旗の先につける飾り毛を指し、また白衣を着た人々の集まりとして、 不吉のしるしと考えられた。 日本ではそのまんまスバルと呼ぶ。おうし座プレアデス星団のこと。 冬によく見え、オリオン座の右上に位置する。 |
参 |
現在のオリオン座のこと。三ツ星は「衡石」(はかりの重り)と呼ばれる。 α星(ベテルギウス)、β星(リゲル)、γ星、χ星は、左右の肩と股を表している。 |
狼 |
『史記』には「大星」であると記され、ひときわ明るかったことを思わせる。 『史記』には「狼の光の角が色を変えると盗賊が多い。」と記され、 どうやら、その時代からシリウスのまわりの明るさが微妙に変わることが 知られていたようである。 現在はおおいぬ座α星シリウスという。全天で一番明るい(-1.5等)恒星である。 実はシリウスは連星であり、主星の周りを8.5等星の暗い伴星が 約50年の周期で回っている。 1862年になってアメリカのクラークがこれを発見した。 ちなみにこのシリウスBと呼ばれる伴星は、史上初の白色矮星の発見であった。 |
南極老人 |
秋分になると、都の南で観測したという。 この星が現れると天下は平穏であり、現れないと兵乱が起こると考えられた。 また、この星を見れれば長生きすると考えられた。 現在、この星はりゅうこつ座α星といい、カノープスと呼ばれている。 東京では地平線すれすれに顔を出すが、 東京の大気は汚れており、また地表付近が明るいために、まず拝めない。 |
北落 |
秋空に寂しげに一つ明るく輝く星であるのは今も昔も変わることなく、 またの名を長安の北門に由来する「北落師門」といった。 現在の、みなみのうお座α星フォーマルハウトにあたる。 |
南斗 |
南斗六星のこと。天子の廟を表すと考えられた。 現在のいて座δ星、ζ星、λ星、μ星、τ星、φ星にあたる。 西洋では、ミルキーウェイ(天の川)をすくうサジと見立てて 「ミルクディッパー」と呼んでいる。 |
牽牛 |
祭祀に用いる生け贄を表すと考えられた。 『史記』ではたったこれだけの記述である。 現在、わし座α星アルタイルと呼ばれている。 |
織女 |
織女は天女の孫であると考えられた。 牽牛と同じく、記述はそれだけである。 現在、こと座α星ベガと呼ばれている。 |
月 |
月は将軍・宰相のことを司ると考えられ、水害とも関係すると考えられた。 また、この時代から月食は周期的に起こると知られていた。 日食は周期的ではなく、法則が見出せなかったが故に、 天意であり不吉の事とされたのである。 月が木星を隠すと、その位置にあたる土地は飢饉にあったり滅亡したりする。 月が火星を隠すと、兵乱がある。 月が土星を隠すと、下の者が上の者を犯す。 月が金星を隠せば、強国が戦に敗れる。 月が水星を隠せば、女性に関する乱が起きる。 と考えられた。 |
異星について | |
国皇星 |
大きくて赤く、形は南極老人星に似ている。 出現すると、その下の国に兵が起こり、その兵は強い。 |
昭明星 |
大きくて白く角がなく、上がったり下がったりする。 出現すると、その下の国に兵が起こり、変事が多い。 |
五残星 |
真東から出て、形は水星に似ている。 地表から六尺ほど離れた位置にあり、大きい。 |
賊星 |
真南に出て、大きくて赤い。地表から六尺ほど離れた位置にある。 度々動いて、光が変化する。 |
司危星 |
真西に出て、地表から六尺ほど離れた位置にある。 大きくて白く、形は金星に似ている。 |
獄漢星 |
真北に出て、地表から六尺ほど離れた位置にある。 大きくて赤く、度々動く。よく観測すると獄漢星の中心は青い。 |
燭星 |
一見、金星のように見えるが、出現しても運行しない。すぐに消える。 その光に照らされた城市には乱が起こる。 |
帰邪 |
星のように見えるが星ではなく、雲のように見えるが雲ではない。 帰邪が出現すると、必ずその国に帰服してくる者がある。 |
天鼓 |
音があり雷のようではあるが、雷ではない。 音は地上でするが、雷は落ちてこない。 その下の国では兵乱が起こる。(↑管理人はコレ見たことあります) |
天狗星 |
大きな流星のようであり、音がして、地上に落ちてくると子犬のように見える。 落下するときは、火柱のようであり、炎が燃え盛って天をつくようである。 出現すると、千里のうちに敗軍があったり将が殺されたりする。 |
格沢星 |
黄色で、燃え上がる火のような形をしている。 地平から空に上り、下部が大きくて上部は鋭くなっている。 出現すると、種蒔きをせずとも収穫があり、土木工事はなく、必ず賓客が来る。 |
蚩尤之旗 |
彗星に似ていて、後ろが曲がり、旗のような形をしている。 出現すると、王者が四方を征伐する。 |
旬始 |
北斗七星の傍に出る。形は雄鶏のようであり、光芒が出て青黒い。 すっぽんが伏せたように見えることもある。 |
枉矢 |
大流星。うねり動いて青黒く、羽毛が生えたように見える。 |
長庚 |
布を天に張り付けたような形状をしている。 出現すると兵乱が起こる。 |
景星 |
徳ある政治が行われている国に現れるという。 形は不定である。 |
石 |
星が落ちて、地面に落ちると石となる。 黄河・済水の間の地方には、時折隕石が落ちる。 |
抜粋でしたが、どうでしたか? 『史記』天官書を著した司馬遷も凄いのですが、 司馬遷が資料として使ったと思われる先人たちの記録も桁外れです。 古代中国の人々は天を敬うこと甚だしく、そこから何らかの法則を見出そうとしたようですね。 現代では、そういった素朴な情操はほとんど失われてしまいましたが、 天体観測は未だにプロアマ問わずに続いています。 星空は人をひきつける何かを持っているのでしょうねo(^-^)o |