第一話:沛県の刑務所職員


曹参は、漢の高祖劉邦と同郷の沛県生まれで、

秦末期に沛県の獄掾(ごくえん:刑務所の属官の職員)に採用された。

刑務所の職員とはいえ、立派な公務員である。


その頃、刑務所職員の同僚には任敖(じんごう:後の広阿侯・御史大夫)がいた。

厩係の夏侯嬰も同僚だった。

上司には蕭何(しょうか:後の相国)がいた。曹参は、蕭何とは親しくつきあっていた。

曹参、任敖、夏侯嬰、蕭何らは、苛烈極まる秦の搾取を賢く緩和させ、沛の人々から崇められていた。

裏の顔役といったところだろう。


その後劉邦は罪を犯し、切羽詰って逃亡した。

曹参らは、劉邦の隠れ家に援助の手を差し延べ、劉邦は餓死せずに済んだ。

同じ頃、陳勝も切羽詰って挙兵した。
(劉邦は逃げたのに、陳勝は挙兵・・・)


陳勝が暴虐の秦帝国に対し反乱軍を起こすと、雪崩が起きたかのように秦帝国は崩れ始めた。

秦政府から派遣されて来ているのにも関わらず、沛県令も反乱を起こそうとした。

しかし、秦の官吏が反乱を起こしても、人民はついてきそうも無い。

そこで、蕭何と曹参を呼んで聞いた。


県令

「今日はお前達に折り入って相談したいことがあるのだが・・・」

蕭何

「なんでございましょう?」

県令

「うむ・・・各地で秦に対し反乱が起きておる。秦政府は救援軍を送る気配すらない。

秦が滅びるのは間違いないだろう。

そこでだ、私も沛の人民を率いて暴虐なる秦を滅ぼそうと思うのだが・・・」

蕭何

「県令さま、あなたはその暴虐な秦から派遣されてきている役人です。

沛の人民はあなたを恨んでいるでしょう。

だから、あなたが反乱を起こしても、誰もついてこないでしょう」

県令

「でっ、では、どうすればよいのじゃ?」

曹参

「死刑判決を受けましたが、沼沢地に逃亡している劉邦をココに迎えればよいでしょう」

県令

「曹参!!お前、本気で言っているのか!!」

曹参

「はい。それしかありません」

県令

「蕭何、お前も同じ意見か?」

蕭何


「はい。曹参の意見は正しいでしょう」


こうして、県令はほとんど脅迫されるようにして劉邦を迎え入れることにした。

しかし、県令も馬鹿ではない。少ししてから、

「劉邦が来たら、私は用無しになり殺されるのではないか?」

と気づき、急いで沛の城門を閉めると共に、蕭何・曹参を捕える命令を出した。

しかし、曹参らのほうが上手だった。

県庁舎内には蕭何や曹参の手下が多くいて、これらの人が二人に急報したため、

蕭何・曹参・夏侯嬰・任敖らはすでに逃げ去っていた。

県令は、蕭何・曹参無しでは何も出来ない。

沛県庁舎の中で、すくんでいるほか無かった。


劉邦は隠れ家の沼沢地から出てきて、沛の城壁の下まで来ていた。

そのとき、蕭何・曹参らが城壁を乗り越え、劉邦軍に合流した。

劉邦は、沛の実力者に矢文を打ち、沛人民の決起を促した。

はたして、沛県令は打ち殺され、劉邦が県令の座を奪った。

この時より、劉邦は「沛公」と呼ばれるようになった。



曹参は、劉邦から中涓(ちゅうけん:劉邦の側近)に任じられた。

ちょっと地味だが劉邦とその一派は動き始めたのだった。


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