第一話:烏氏か


安定郡という処は、現在の甘粛省の最東部であり、山地には森林樹木が多く、

北狄や西戎などの異民族と境を接し、戦いに備えて軍事演習が行われていた。


この安定郡烏氏県に住むか(読み方は「か」。姓は判らない)という商人は牧畜をして生計を立てていた。

牧畜が軌道に乗り、豊かな畜産物がとれるようになるとかはそれらを売り払い、

高価な絹織物を買いこんだ。


かはその絹織物を惜しげも無く西戎王に献上した。

西戎王は中国の絹織物を非常に気に入り、またかを信任して絹交易の際は常にかを指名した。

西戎は物々交換で交易を行っていたので、王は絹の代価として家畜を出した。

西戎では価値の低い家畜であったが、中国ではその十倍の価値があり、かは益々富み栄えた。

かの牧場では、家畜の数が数えられなくなってしまい、

「谷2つ」「谷3つ」というように牛・馬を数える程であった。


秦の始皇帝は、かを諸侯なみに扱った。

始皇帝は季節ごとの朝廷儀式にかを招待し、大臣たちと同じ格式で参列させた。


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