大風起こりて雲飛揚す
 大風が吹き起こり、空に雲がわきあがった。

威は海内に加わりて故郷に帰る
 私の威光は天下に響き渡り、いま故郷に帰ってきた。

安にか猛士を得て四方を守らしめん
 何とかして勇士を集め天下を守りたいものだ。



劉邦の天下が定まった後、天下平定に功のあった王を次々と粛清した。

その仕上げに淮南王英布を討ったが、粛清に成功したものの劉邦は負傷した。

帰途、故郷の沛に寄り酒宴を開き、沛の子供達を呼んだ。

宴もたけなわになると劉邦は筑を撃ち、かつこの大風歌を歌った。

子供達にも唱和させ覚えさせた。

劉邦は立ちあがり舞い、感極まって泣き出して言った。

「旅の者は故郷を懐かしむものだ。

私は死んでも魂はなお沛を懐かしむだろう。

今後沛の夫役を免じ、一切の使役にかりださないと約束しよう。」

沛の人々は喜んだ。

父老・老女や旧知の者は集い、劉邦の昔を語って飲み笑い楽しんだ。

十数日経って劉邦は都へ帰ろうとしたが、沛の者は帰そうとしなかった・・・


本紀のこのくだりは、劉邦の人柄が強く滲み出ている名文である。

故郷で感極まって泣き出す皇帝などそういない。

大風歌も直接的な表現であるにもかかわらず、深い味のある漢詩となっている。



戻る