第七話:悔不用かい通之言


項羽が破れ天下が定まった後、韓信は王位を追われ最後には謀反未遂で誅殺された。

死に臨んで韓信は言った。

かい通の言葉を聴き入れず、女子の手にかかって死ぬのは無念だ。」


かつてかい通は独立を拒否する韓信に直言した。

「計誠知之、而決弗敢行者、百事之禍也。」
  よく謀りよく承知していながら決断できないのは、全ての禍根である。
「夫功者難成而易敗、時者難値而易失。『時乎時、不再來。』」
  そもそも功業は成し難く失敗しやすく、機会は得難く失いやすいもの。『時よ時。二度と訪れない。』

それに対し韓信は一定の理解を示しながらも、「義に背くことはできぬ。」と言って拒否したのだ。


高祖劉邦は遠征から帰還し、隠然たる勢力を持つ韓信が誅殺されたと知ると、

韓信の功績を思って悲しんだり、これからのことを考えて喜んだりした。

しかし、かい通がかつて韓信に謀叛を勧めたことを知ると怒り、

「それは斉の弁士である。ひっ捕らえよ。」と斉に命令した。
劉邦に名を知られているということは、高名だったのかも知れぬ。
『漢書』には「項羽が蒯通を封じようとしたが、蒯通は拒否した。」とあり、項羽にも名を知られていた。


斉王劉肥はかい通を召しだし、長安へと護送した。

謀叛を勧めてから五年以上経っているのだ。 調子外れの逮捕にかい通は笑ったに違いない。

「韓信のやつが今頃わしの名を出したな。」と。

都へ到着すると、劉邦直々に尋問した。

劉邦 「お前は淮陰侯(韓信)に謀叛を教えたな。」

かい 「いかにもその通りです。当然教えました。

しかしあの馬鹿は私の計略を採用せず、自ら破滅を招くはめとなりました。

もしあの馬鹿が私の計略を採用していたなら・・・

陛下、あなたは韓信を滅ぼせましたかな。」

劉邦 「何だと貴様!

こいつを煮殺せ。煮殺すんだ!!」

かい 「ああ!私は無実ですぞ。」

劉邦 「貴様は韓信に謀叛を教えたのだ。何が無実だ。」

かい 「蹠(古の盗賊)の犬が堯(聖天子)に吠えるのは、堯が不仁だからではありません。

犬は飼い主以外の人間には吠えるのです。

当時、私は韓信だけを知っており、陛下を存じあげませんでした。

それに天下には陛下のなさったことをしようと思う者が数多くございました。

その者たちは、ただ力が不足していただけなのです。

彼らをことごとく煮殺すことができましょうか。」

劉邦 「・・・・・・こいつを釈放してやれ。」


かい通は斉へ帰った。


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