第三話:漢、大敗

彭越軍は楚の蕭公角と対峙した。

兵数で言うならば、蕭公角軍の方が断然多かった。

一方、彭越軍は兵数では劣るとはいえ、要所要所に兵を伏せていた。

勝敗は、すでに明らかだった。

優勢だった蕭軍は、彭越の伏兵に叩かれ、完膚なきまでにやられた。

彭越は、「言っただろう。戦は数じゃねえって。はははは」

と、有頂天だったに違いない。

そして、勢いに乗った彭越は、瞬く間に魏の十数城を手に入れた。

各地で反乱が広まり、さすがの項羽も休む暇がなくなってきた。

そんな時、元秦の地を押さえた漢の劉邦が兵を進め楚の本拠地の彭城を攻めることになった。

彭越は、「こりゃ、漢が勝つな。俺達も漢につくか」と、

配下三万人を引き連れ、外黄の地で劉邦と合流した。

劉邦「おお、彭越どの。お久しぶりですなぁ。

蕭公角を打ち破った話は、もうこちらまで聞こえております。

寡兵で敵を破ったそうで。彭越どのが味方にいる、これで私も気が楽です」

彭越「いえいえ。あの軍勢は半分、斉が貸してくれたものです。私の自前の兵は少なくて・・・」

劉邦「彭越どのにはこれからも末永く友軍として宜しくお願いしたい。

あなたには魏国の宰相の地位と梁の地を与えよう。

梁の地はまだ項羽の領土だが、あなたの取り得にしよう。

梁の地で兵を練り、漢の友軍として活躍してくだされ」

彭越「えっ、梁の地をいただけるので?これは有難い!」


彭越は今までどこかの国の将軍として活躍はしてきたが、いわば各国に寄生してきた。

そんな彭越に劉邦は立脚地を与えてくれたのだ。

彭越は喜んで彭城攻めに参加した。

この時点で漢連合軍は五十六万に達していた。


項羽は斉の反乱鎮圧のため留守で、城はあっけなく落ちた。

兵達は項羽に対する恨みを晴らそうと略奪を繰り返した。それほどにまで項羽は怨まれていた。

ともかく、劉邦の連合軍が彭城で略奪をしているという噂は項羽の耳にすぐ入った。

項羽は斉に本隊を残し直属兵三万だけを率い、彭城を奪回すべく斉の地を離れた。

たった三万で五十六万を倒そうとした項羽の勇気には恐るべきものがある。

項羽は直接彭城を囲まず、まず彭城の西の蕭を急襲した。

数を頼みに何の警戒もしていなかった漢軍はあっという間に粉砕された。

木っ端微塵になった漢軍は、各々劉邦のいる彭城を目指した。

項羽は彼らの後を追い、彭城になだれ込んだ。

篭城する暇もなかった。気付けば楚軍が城の中にいた。

項羽は獅子奮迅の働きをし、劉邦軍五十六万を粉々にし大多数を降伏させた。

項羽は降伏した兵を生き埋めにはせず、劉邦を捕えることに使った。

生き埋めにしている場合ではなかったからである。

降伏兵は劉邦は捕えられなかったがその父・妻は捕えた。

項羽の、史上に残る大勝利である。


その頃、彭越は・・・・・

彭越「やべえ〜、こりゃ逃げたほうがいい。

よし、遠く北のほうに逃げよう。あそこらへんは項羽の勢力地じゃねぇ」

子分「えっ?梁に逃げ込まないんですかい?梁が奪われてもいいんですかい?」

彭越「馬鹿者!!梁なんかでグズグズしてたら項羽に刺し殺されちまう。

お前らも全員生き埋めにされちまうぞ。項羽は俺よりも強えーぞ」

子分「え!!親分より強い?そりゃまずいっすねぇ。

そういうことなら、潜伏してたほうがいいですね」

彭越「わかったなら、逃げ支度だ。北へ向かうことを皆に伝えろ。いいな」

子分「へい!!」


彭越は、劉邦とは違う方角に逃げた。同じ方向に逃げたなら、追撃を受け全滅していただろう。

雎水という河は、漢軍十数万の死体で流れが止まったと言われている。


だが、彭越は劣勢にもめげず、黄河のほとりを本拠地にして、起死回生の策を練っていくのである・・・

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