第三話:母



二万人の反乱軍首領になってしまった陳嬰だったが、かれには素晴らしい助言者がいた。

母である。

陳嬰の母は世の道理をよく心得ていた。

「私はおまえの家に嫁入りしてから随分経ちますが、今まで陳家で高貴な身分になった人がいた

という話を聞いたことがありません。

今、お前は脅されて王と呼ばれていますが、これは不吉です。

どこかに所属して誰かの配下になったほうが良いと思います。

もしこの反乱が成功すれば侯に封じられます。失敗したとしても王よりは逃げやすく、

世間から目をつけられることもないでしょう。」


陳嬰はこの助言で一挙に視野が開けた。

そして、集まった二万人に伝えた。

「秦を倒すのに、将に人を得ていなければ必ず失敗する。

会稽で挙兵し進撃している項氏(項梁)は、楚において代々将軍の家柄。

私は項氏こそ将の器だと思う。

我々が名族に従えば、必ず秦を滅ぼすことができよう。」


彼の母は息子の器量をよく知っていた。陳嬰も自分をよく知っていた。

項氏に目をつけたことも結果的には正解だった。



こうして広陵一帯は項梁に属すことになる。まだ、項梁は淮水を渡っていないが・・・


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